【舞いあがれ!】登場人物は普通の人々、物語も劇的ではない…それでも視聴者の胸をうつ理由

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 2週目の放送が済んだNHK連続テレビ小説の新作「舞いあがれ!」が好評だ。心打たれている人は多いはず。涙している人もいるのではないか。この作品はどうして観る側の胸を衝くのか。

「舞いあがれ!」はどうして胸を衝くのか

 この作品には特別な人が出てこない。主人公で内気な小3の少女・岩倉舞(浅田芭路[9])もその母親のめぐみ(永作博美[51])も祖母の才津祥子(高畑淳子[68])も普通の人。物語もまた劇的ではない。

 それなのに観る側の胸を衝く。桑原亮子さん(42)が脚本で登場人物たちの哀歓や心の機微を描き、それを出演陣が丁寧に演じているからだ。映像も美しい。

 また桑原さんがつくっている「余白」が絶妙で、これも観る側の心を打つことにつながっている。余白は桑原さんが説明的場面を極力避けることで生まれている。また、塔短歌会に所属し、歌人としても実力者である桑原さんには冗長と思えるセリフがなく、それも余白を生んでいる。

 心の機微がどう描かれ、余白がどう使われているのか。2週目のストーリーを振り返りたい。

 長崎県・五島列島出身で祥子の1人娘・めぐみは、14年前に岩倉浩太(高橋克典[57])と駆け落ちした。浩太は今、東大阪でネジ工場の社長を務めている。このため、祥子は五島で1人暮らしを余儀なくされていた。

 だが、浩太の提案により、舞の心因性発熱症の療養を五島で行うことになり、めぐみも同行する。祥子とめぐみは14年ぶりに再会を果たす。祥子と舞は初対面だった。

 その後、祥子はめぐみを東大阪に帰した。めぐみの干渉が舞の発熱の一因と考えたからだ。ここまでが第1週だった。

心の機微が描かれている

 第2週から舞と祥子は2人きりになった。第7話で舞が1人暮らしをしている祥子に問うた。子供らしく、素朴な疑問を投げ掛けた。

「さみしないの?」(舞)
「平気さぁ。島のみんなもおる」(祥子)

 孫に弱いところを見せたくない気持ちもあっただろうが、本音に違いない。

 だが、誰でも内面は複雑。矛盾するところもある。本音が1つとも限らない。肉親との関係は特にそうだ。

 舞は第8話で再び祥子に尋ねた。揃って防波堤でおにぎりを食べている時だった。

「お母ちゃんのこと嫌い?」(舞)
「嫌いなわけがなか。待っとったとよ。めぐみに会いたかったぁ、舞と悠人の顔ば見たかったぁ。じゃけん、いま舞と一緒におって、うれしかぁ」(祥子)

 1人でも平気という言葉とやや矛盾するが、やはり祥子の本音にほかならない。これが桑原さんの紡ぐ機微の一例である。ちなみに悠人(海老塚幸穏[13])は小6になる舞の兄だ。

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