【舞いあがれ!】登場人物は普通の人々、物語も劇的ではない…それでも視聴者の胸をうつ理由

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つくりかけの凧で表した祥子の心象風景

 この直後、祥子は家に向かって走り出す。

「あっ、そやった。見せるものがあっとさ」(祥子)

 舞もついていく。祥子が自宅の押し入れから出したのは2つの「ばらもん凧」だった。

 この凧は五島に古くから伝わる。子供が生まれると、その厄を祓うため、親や祖父たちがつくる。

 もっとも、祥子が出した凧は悠人の分が絵入れの途中。舞のほうは骨組みだけだった。

「悠人と舞が生まれたと聞いた時に、じいちゃんの代わりにつくろうとしてさ、途中になっとった」(祥子)

 なぜ、途中になっていたのか。さだまさし(70)のナレーションを含め、誰も説明しない。これが桑原さんのつくる余白の1つである。

 初孫・悠人の凧はめぐみか本人に贈れることを期待し、ほぼ完成させたのだろう。だが、音信が途絶えたままだったので、途中で渡すことをあきらめたのである。だから、つくる気力も湧かなくなった。舞の分は早々と渡すことを断念したので、骨だけだったのだ。

 つくりかけの凧で年老いた祥子の心象風景を表した。そのうえ余白をつくり、観る側に祥子の胸のうちを想像させた。胸を衝かれるはずである。

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