「五輪汚職」で悪者扱い 「大広」の知られざる「功」と「罪」

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ただ名前を入れただけではない

 ちょうどその1年前、ニューヨーク株式市場に上場し、83年には東京電気化学工業株式会社をTDK株式会社と改名 。ロンドン市場にも上場した時期だった。

 結果的に、大会中の日本国内の露出効果だけで11億円と試算され、その後少なくても約1ヵ月以上は続く雑誌などの報道も合わせたら、その数倍の広告価値があった。しかも、国内以上に、海外での効果は計り知れない。国際的な業務用テープの市場でScotchやBASFに後れを取っていたTDKが勢いを伸ばす起点ともなった。スポーツ・ビジネスの世界では伝説となっている「TDKゼッケン」の一翼を担ったのが、大広だった。改めて、宣伝会議の原稿を引用する。

《今回、TDKのプロモーションを担当した大広のKプロデューサーは、次のように説明する。
「皆さん、『TDKの文字が目立った』とおっしゃって下さいますが、それには理由あるんです。決して、ただ名前を入れただけではないんです。ゼッケンに入れる社名は、日本陸連では天地16ミリ、国際陸連では天地25ミリと決まっています。でも、それではいかにも小さいんです。そこで我われは、国際陸連に働きかけて、天地33ミリにしてもらったんです。『他競技への影響が大きいから……』という理由で交渉は難航しましたが、ようやく特例ということで認められました。だからこそ、あれだけ鮮やかに目立ったのです」》

食い物にされるスポーツ

 大広は、スポーツ・ビジネスの夜明けのころから、こうした貢献を続けてきた代理店だ。そうした功績については一切評価されることなく、悪者として名前を挙げられることには悲しみを覚える。今回、大広は、取引のある英会話学校が大会スポンサーになれるよう働きかけた疑いを持たれ、スポーツ分野の問題ではない。畑違いで実績がないと言われたらそれまでだが、新たなスポンサーに入るためにスポーツ分野で長い実績のある大広が、高橋容疑者に賄賂を渡さなければならないオリンピックの閉鎖性。またそれを巧妙に利用して私腹を肥やす高橋容疑者の悪辣さは、スポーツに携わる者として激しい憤りを感じる。

 スポーツが食い物にされている。スポーツがそのような輩に蹂躙されてきたこと、いまもなお、そのことに怒りを表さず、一掃するための行動も起こさないスポーツ人たちに忸怩たる思いを抑えきれない。逮捕者が増えるだけで、浄化や改革が進むわけではない。現状、日本のスポーツ界がよくなる兆しは感じられない。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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