岸田首相が長男を秘書官起用で“4代世襲”が決定 識者は「箔付け人事。最悪のタイミング」と分析

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決断に反発

 話題になった“岸田ノート”は、前に触れた“中曽根ノート”に触発された可能性がある。しかし、岸田首相に明確な政策ビジョンを感じた有権者は少数派だろう。

「有権者が当初、岸田さんを支持したのは、ソフトな佇まいに好感を持ち、バランスの取れた政治家という印象を持ったからでしょう。安倍さんによって分裂してしまった有権者を、再び統合してくれるという期待もあったはずです。そのため、岸田さんが何もしなかった時はイメージが保たれ、高い政権支持率を維持していました」(同・伊藤氏)

 自民党の総裁選でも、多くの議員にとって“岸田総裁”は都合が良かった。自民党を抜本的に改革する姿勢に乏しく、自分たちの地位が安泰に思えたからだという。

「ところが皮肉なことに、岸田さんが国葬や原発再稼働といった果敢な決断に踏み切ると、有権者が持っていたイメージが壊れてしまい、不支持に転じるようになったのです。結局、岸田さんは、政治家として修羅場をくぐった経験を持っていません。首相の座に就いたのも、菅義偉さん(73)が政権維持を諦めざるを得なかったからで、一種の“棚ぼた”です。政治家として修羅場の経験が浅いことが、躓きの原因だと思います」(同・伊藤氏)

政治の劣化

 なぜ岸田首相は政治家として修羅場を経験できなかったのか、それは乳母日傘で育てられた世襲議員だからだという。

「政治家という言葉には『家』がついています。これは音楽家、作家、画家という言葉からも分かる通り、『本人の並外れた情熱で実現する地位で、基本的に一代限り』という含意が汲み取れるはずです。ところが、日本の政治は気がつくと、『屋号』を持つ老舗のように、世襲が常態化してしまいました」(同・伊藤氏)

 岸田家は、まさに政治が“家業”になってしまった典型例だろう。一部の老舗によく見られるように、「多少のボンクラが跡を継いでも、周りの番頭がしっかりしているから大丈夫」というわけだ。

「それでもビジネスの世界は、シビアな競争が日常的に行われています。トップが世襲であれ叩き上げであれ、実績を出さなければいつかは辞めるしかありません。ビジネスの世界で世襲の失敗例が多いのはそのためだと思います。一方、能力や実績を問われることが少ない日本の世襲政治家は、その大半が戦っていないということなのでしょう」(同・伊藤氏)

 一代限りの「家」ではなく、世襲が可能な「屋」である──これが日本における政治家の悪しき現状、と伊藤氏は指摘する。

「『家』ではなく『屋』なのですから、まさに政治家ではなく政治屋に過ぎません。広島の有権者が岸田さんを選んでいる以上、我々は何も言えないというところはあります。とはいえ、日本の政治が劣化している原因の一つに、世襲の問題があるのは間違いないでしょう」(同・伊藤氏)

註:首相秘書官に長男起用へ 岸田首相(中国新聞・2022年10月4日)

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