80年代の田舎の心地よさと、ホラーな最終回が痛快 ドラマ「アキラくん」に魅了された

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 事前に情報を仕入れず、新作ドラマというだけで録画し、観始めたらうっかりハマったものの、3話で後半、つまりたった4話で終わるという。それがTOKYO MXの「アキラくん」。アキラといえば、成田か清水か大友克洋、という昭和世代にぴったりのノスタルジー学校モノである。

 主人公はJC、女子中学生のなぎ沙(早瀬結菜)。幼い頃に母が他界。男手ひとつで育ててくれた父親が再婚するという。連れてきた女性はなんとなく母に似ていた。その無神経さに耐えられず、東京・中野区から田舎の祖父母(綾田俊樹・内田春菊)の家へ単身転居。父からの連絡は一切無視。

 で、転校先の教室で違和感を覚えるなぎ沙。前の席に座っているのは、見た目があきらかにおじさん。ところが先生も生徒も中学生として接している。おかしい。クラスメートに疑問をぶつけると、一瞬空気が凍った後、誰も何も言わず、何事もなかったかのようにスルー。そのおじさんはアキラくんと呼ばれ、みんなに親しまれている。学校内だけでなく、町内すべての人が、アキラくんを中学生として受け入れている……え、なぜ?! という物語。

 いや、マジで、なぜ?! と思う。視聴者の98%がなぎ沙と同じ気持ちになったはず。おじさんに見えるのは自分だけなのか? 「ブラピ 映画」で検索したなぎ沙の気持ちがよくわかる。アキラくんはベンジャミン・バトンのように、年を取った状態で生まれたのではないか? もしかしたら老け顔なだけ? びっくり人間? 義務教育はいくつまで? と検索していくなぎ沙。挙句、モニタリングではないかと疑って、カメラを探す(どっきり番組の「モニタリング」ね)。そうなるよねー。微妙に検索ワードが私の世代(40~50代)っぽいのはさておき、アキラくんはなぜ中学生として振る舞っているのか、最終回で真相が明らかに。

 ハートフルな結末というか、いやこれ現実にあったらホラーだな、ある意味で「サイコ」に近いなという思いも否めないが、この作品が醸し出す空気感は、なんだか懐かしくて心地よい。

 ちょい田舎の女子中学生(岸せいら・薙八千流)の会話がアホっぽい感じ、個人商店で買い食いする様子、学校の担任教師(芦原健介)が超適当な感じ、夏の暑さがうっとうしいのではなく、どことなく間が抜けている感じ。なんかね、昭和というか1980年代っぽいのよね。自分が中学生の頃を思い出させる絵ヅラなのだ。私もアホだったよなぁ、こういう教師いたよなぁ、あの頃の夏はなんかこう牧歌的だったよなぁ、なんてね。

 余計なことは聞かない配慮のある優しい祖母、ホラ吹きだが心配してくれている祖父、頻繁に来ては共に食卓を囲む父の幼なじみ(安藤なつ)、壁はないがデリカシーもない同級生(小山春朋)。ちょい田舎の「距離の近さ」「優しさ」がよき方向に向かっている、珍しい作品でもある。そうそう、アキラくんを演じたのは筧十蔵。たたずまいが実に素人っぽくて、逆に新鮮。魅了されちゃったよ、アキラくんに。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年10月6日号掲載

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