アントニオ猪木さんが告白していた、難病「心アミロイドーシス」との闘い

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高額な薬代

 私は昔から心臓には自信がありました。マラソン選手が高地トレーニングをするような場所、たとえばエチオピアなどの空気が薄い高地でトレーニングを行ってきたからです。20段くらいの階段を走って上り下りする。これをものすごい数、繰り返しました。潜水も得意で、パラオなんかの海で潜ったりしました。海女さんじゃないですが3分近く潜れます。だから私の心臓は世界一強いんじゃないかと過信していたことになります。医師と話す中で聞く限りでは、結局、心臓は強いのに膜が被(かぶ)っちゃったわけです。それが働きを悪くしているから血液が循環せず、腰から下に血液が回らなくて、それほど寒くなくても冷える。ふだんから冷えないよう温めていますよ。

 それからもう一つ。私の家族も心アミロイドーシスが死因だったのではないかと疑っています。うちの家系はみんな、心臓で逝っているんですよ。親父は56歳で亡くなり、兄も2人とも心臓でした。みんな突然パタッと倒れてしまってね。一番上の兄は、朝、寝室がある2階から水を飲みに降りたら、冷蔵庫の前で動かなくなってしまった。私の二つ上の次兄はがんも患っていたんだけど、いまから2年前、“ちょっと調子が悪い”と119番をしたら、救急車が来る前に急に倒れて逝ってしまいました。

 それぞれの症状や死因について詳しく聞いてはいないけど、みんな心臓病です。いまとなっては心不全か心アミロイドーシスだったかも分かりません。でもうちの家系は、逝くときは心臓系だと覚悟しています。

 聞けば、心アミロイドーシスという難病は、さまざまなことが判明してきたのはこの数年といいます。私自身は遺伝だと思っているんだけど、調べたところ、遺伝すると言う医師もいれば、遺伝じゃないと話す医師もいる。私も後天性との診断を受けましたが、現時点ではまだよく分からない部分もある。また、私は冷え性のほかにも糖尿病だとか胆石だとか多くの持病があります。先ほども言いましたが、私は心臓のポンプが弱くなって血液がうまく循環しない。それで手術もできないらしいんです。

 で、医師と慎重に検討した結果、今年の3月からビンダケルという薬を飲みはじめました。最近、処方されるようになった薬で、治すというより進行を止めるものだと聞いています。心臓に網みたいにかかっているアミロイドを溶かしていくというのかな。薬を処方できる医師も日本にはそれほど多くなくて、まだまだ研究が進んでないんですよ。

 それもこれも、これまでこの病気の存在が表に出てこなかったから。心アミロイドーシスは100万人に数人という難病中の難病とされる病気。患者数が少なすぎて、コストをかけて薬を作っても割に合わなかったのでしょうか。そのビンダケルは、昨年春ごろに追加になったばかりと聞いています。

 効果のほどはと聞かれても、私にはまだよく分からない。周囲は、「よくなっているように見えます」と言うんですけどね。自分ではどこがどうよくなったのか、さっぱり分からない。薬は進行を止めるためなので、服用していなかったら、悪化していたかもしれません。正直、実感はないんだけど、むくみについては、ほとんどなくなりましたね。痛み止めのように効果が出るわけじゃないので難しいんです。薬が自分に合っているのかも分からないですし。

 それと、なによりこれがやたらと高い。1日4錠、毎日飲まなきゃならない。1カプセルが約4万4千円。1日で約17万6千円だ。年間だとこれは莫大な金額になります(註・単純計算で年6400万円)。私は難病申請も認定されたのでよかった。どれくらい安くなるかは、詳しくは分かりませんけど。

 副作用は気にしたことがないね。そうだ、副作用は薬代が高いこと! 本当に、薬価を聞いて、そんなにするのかよって。この歳でこれからも稼がなきゃいけないから大変ですよ。だけど私は、“落ちこんでもしょうがない。いつお迎えが来ても構わない”と思っています。罹ってしまったものは仕方ないですから。遺伝かどうかはまだはっきりしない部分もあるけれど、遺伝だったら、親父はいい遺産を残してくれたと思いますよ。なぜなら、セコい話だけど、この年齢になっても薬が高いから働くしかないんでね。頑張って自分の老体にムチ打たなきゃいけないから、家で寝たきりになんてなれない。その点はありがたいなあ。

 今回お話ししたのも、いまさら隠し立てすることはないと思ったからです。「元気ですか!」の掛け声通り、私は元気と健康が売りものですが、実際は本当に傷だらけ。傷は歳の数より多いぐらいです。首から肩から膝から、全身、手術しました。それでもこうやって生かされている。それ自体がありがたいと感じています。

 アミロイドは知らないことが一番怖い。知っていれば対処法も分かる。それも私が公表した理由です。これから研究が進めば患者数は増えるんじゃないかな。というのも、これに罹患しながら気づいていない人が多いらしいから。心不全だと思っていたら、実は心アミロイドーシスだったという人が増えると思います。

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