ファンの感動を呼んだ! 引退試合で“最後の最後”に輝いた名選手列伝

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完全燃焼した“ハマの番長”

 近年の投手の引退試合は、先発して打者1人に投げて降板というパターンがほぼお約束だが、10点取られても7回途中まで投げつづけ、完全燃焼したのが、“ハマの番長”三浦大輔(現・DeNA監督)である。

 大洋時代の1992年に入団し、DeNA時代の16年に現役25年目を迎えた三浦は、NPB新記録の24年連続勝利に挑んだが、シーズン初登板となった7月11日の中日戦で4回6失点KO。9月16日の阪神戦でも、5回途中2失点で2敗目を喫すると、球団に引退の意向を伝えた。

 前出の中日戦のあと、2ヵ月以上も登板がなく、「そのときには、ほぼ気持ちが固まっていた」という三浦は、9月20日の引退会見で「勝てなくなったら辞めると決めていた」と涙ながらに胸中を打ち明けた。

 だが、勝利への執念はいささかも衰えず、現役最後のマウンドとなる9月29日のヤクルト戦で、24年連続勝利に挑戦することになった。

 初回にいきなり1点を先制された三浦だったが、その裏、梶谷隆幸が左越えに同点ソロ。2回に広岡大志に3ランを被弾した直後にも、ロペス、エリアンの2発など5長短打で6対4と逆転。「絶対に勝たせてあげたい」というチーム全員の熱い思いが伝わってきた。

「次の回、1人だけいくぞ」

 だが、三浦は4回に二塁打3本を浴びて逆転を許すと、6回にも3点を奪われ、ついに自己ワーストの10失点。さすがにこの回限りで降板と思われたが、ラミレス監督は、「もう(投球を)見せられない」と目を赤くしてベンチに引き揚げてきた三浦に指を1本立て、「次の回、1人だけいくぞ」と続投を指示した。

「マウンド上で代えたいと思っていた。ファンから声援を貰って、マウンドを降りてもらおうと。今日は多くのファンが三浦を見に来ていたので、見せたかった」という理由からだった。

 6回裏、代打を送られることなく打席に立ち、中飛に倒れた三浦は、引き続き7回のマウンドへ。そして、32人目の打者・雄平を137キロ直球で空振り三振に打ち取ると、ナイン一人一人と握手し、超満員のスタンドに深々と一礼してマウンドを降りた。

 打者1人限定の“引退式”が定番化するなかで、異彩を放った三浦の現役最後の“大奮投”は、長年応援してきたファンにとっても一生忘れられない思い出になったことだろう。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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