二枚舌外交を極める尹錫悦 米中二股にいら立つバイデンの「お仕置き」のタイミング

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米韓首脳会談は雲散霧消

――米国はどうしたのですか?

鈴置:何と、米韓首脳会談を開きませんでした。韓国政府が「実施する」と正式に発表していた首脳会談を、です。その代わりに、なのでしょう、9月21日にNYで開かれたある会合で、尹錫悦大統領はバイデン大統領と48秒間、立ち話をしました。もちろん、スワップを頼む時間などなかったでしょう。

 なぜ、米国が首脳会談に応じなかったかは不明です。あるいは韓国の発表が勇み足だったのかもしれません。ただ、結果から言うと、韓国が通貨危機に陥る可能性はこれでグンと増した。

 おりしも9月21日、米FRB(連邦準備理事会)はFOMC(米連邦公開市場委員会)を開き、0・75%の利上げを決めました。

 翌22日のウォンは朝方から売られ、心理的抵抗線の1ドル=1400ウォンを13年6カ月ぶりに突破しました。同日の終値は前日比15・50ウォン安・ドル高の1ドル=1409・70ウォンでした。

 FRBは年内にさらに利上げする姿勢を打ち出しています。韓国では年内に1ドル=1500ウォンまでウォン安・ドル高が進むだろうとの悲観的な見方が広まっています。韓国人が心理的に追い詰められていくのは確実です。

「最後の救命ロープである通貨スワップが欲しければ、中国と手を切れ」と米国が脅す絶好の条件が整いました。ただ、中国が韓国に救命ロープを投げる可能性もあります。

韓国を舞台に米中通貨戦争

 中韓は4000億人民元の通貨スワップを結んでいます。現行レートでは560億ドルに相当するかなりの規模のスワップです。ただ、下手にこれを発動すると韓国の通貨危機に中国も巻き込まれる可能性があります。

 韓国の外貨建て債務のほとんどはドル建て。中韓スワップを使うには、いったん人民元をドルに替える必要があります。その際、巨大な人民元売りが発生するからです。

 今後、韓国を舞台に、通貨を武器にした米中の戦いが始まる可能性が高い。もちろん日本も傍観者ではいられません。目を皿のようにして、状況を見守る必要性があります。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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