巨人、西武、阪神…リーグ優勝を逃した“歴史的取りこぼし”を振り返る!

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楽勝ムードが9回に暗転

 次は89年にリーグ5連覇を目前で逃した西武である。おそらく、ブライアントに4連発を浴びた10月12日の近鉄戦ダブルヘッダーを“痛恨の試合”として思い浮かべる人が多いはずだが、“取りこぼし”という意味では、10月5日のダイエー戦こそ、悔やんでも悔やみきれない試合だった。

 首位ながら2位・オリックスに0.5ゲーム差、3位・近鉄に2・5ゲーム差と尻に火がついた西武だったが、最下位・ダイエーには13勝9敗2分と分が良かった。下位チームに確実に勝っておきたい森祇晶監督は。満を持してエース・渡辺久信を先発させた。

 西武打線は序盤から火を噴き、2回に吉竹春樹のタイムリー二塁打で1点を先制すると、3回にも打者10人の猛攻で7点を追加し、8対0と大きくリードした。

 渡辺も8回まで5失点と雑な投球が目立ったが、8回を終わって10対5。西武の勝利は不動と思われた。

 ところが、そんな楽勝ムードが9回1死から一気に暗転する。渡辺が4連続長短打を浴びてKOされ、10対7。2番手・小田真也も1点を失った。さらに3番手・石井丈裕も岸川勝也に同点タイムリー二塁打を許したあと、藤本博史に左越え3ランを被弾。ついに10対13とひっくり返された。

 その裏、西武も2点を返し、なおも2死一、三塁で4番・清原和博が痛烈な当たりを放ったが、不運にもセカンド・バナザードの正面をつき、あと1点届かず……。

 8点リードを守れなかった西武は、その後、前述した近鉄とのダブルヘッダーでブライアントに打ちのめされるなど、残り7試合を3勝4敗と負け越し、V5どころか、近鉄、オリックスの後塵を拝する羽目になった。

“三原魔術継投”

 最後は73年の阪神である。残り2試合で1勝すれば9年ぶりVが実現していたのに、中日、巨人に連敗し、まさかのV逸。シーズン最終戦で巨人に0対9と大敗した直後、怒り狂った約3千人の阪神ファンがグラウンドに乱入し、暴動を起こした事件は今も語り草になっている。

 同年の最も悔いが残る試合として、7対0とリードしながら、10対10で引き分けた10月10日の巨人戦を挙げるファンも多いかもしれない。しかし、取りこぼしという意味では、4位・ヤクルトに9勝17敗と大きく負け越したことが致命的だった。

 ヤクルト・三原脩監督が考案した、現在のショートスターターの走り的な“三原魔術継投”にしてやられたのである。

 5月23日のヤクルト戦、阪神打線はプロ初先発のルーキー左腕・小林国男に3回までパーフェクトに抑えられたあと、4回からリリーフしたエース・松岡弘にも8回まで1安打と沈黙。0対1の9回に連打で無死一、三塁と遅まきながら反撃すると、三原監督はこの場面でもう一人のエース・安田猛を投入し、そのまま逃げ切った。

 リリーフの小林を先発させ、4回から松岡を投入する奇策は、松岡がいつも7、8回に突然乱調に陥ることから、「4回から繰り下げて使ったらどうだろう。頭からリリーフという形があってもおかしくない」という“逆転の発想”から生まれたものだった。

 その後も阪神は、小林-松岡の継投に2度煮え湯を呑まされ、10月4日にも榎本直樹-松岡の継投に痛い1敗を喫してしている。この計4敗がひっくり返っていれば、ヤクルト戦は13勝13敗の五分になり、最終戦でのV逸もなかったかもしれない。

 たらればの話をしても仕方がないとわかっていても、「あの試合は勝てたのに……」と愚痴のひとつやふたつ言いたくなるのも、熱心なファンならではの心理である。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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