【恐山】ケータイは3カ月、パソコンは6カ月で故障 「ブラタモリ」でも話題の恐山を住職代理が解説

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 9月10日放送の「ブラタモリ」(NHK)でブラブラの対象になったのは恐山。死者と会える場所と呼ばれることもあるので、人によってはおどろおどろしいイメージをお持ちかもしれない。

 この回でタモリさんたちの案内役を務めたのが、禅僧で恐山菩提寺院代(住職代理)の南直哉さんだ。番組内ではパソコンがすぐに故障してしまうなど、その特殊な環境についても解説をしていた。

 見るからに他の場所とは異なる雰囲気の恐山なのだが、実際の恐山とはどういう場所なのか。

 南さんの著書『恐山―死者のいる場所―』の第1章は、「恐山夜話」と題した講演をもとにした「恐山入門」ともいえるパートになっている。

 恐山の基礎知識にあたるところを抜粋・引用してみよう(「第1章 恐山夜話」より)。

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おどろおどろしさの理由

 みなさまこんばんは。南直哉と申します。

 私の姿をご覧になっていただければわかるように、「お坊さん」をしております。お寺の生まれではありませんが、思うところあって、当時勤めていた会社を辞め、1984年に出家得度しました。福井県にある曹洞宗の大本山・永平寺で約20年の修行生活をおくったのち、2005年から、今からお話しする青森県下北半島にある霊場・恐山におります。現在はそこを管理する菩提寺の院代(住職代理)という立場であります。

 この講演のタイトルは「恐山夜話」。みなさまがどのような話を期待されているのか、世間事に疎い私でさえ、そのあたりわからないでもない。夏場のテレビや雑誌で毎年おなじみの怪談話を、ひょっとしたら期待されているかもしれません。

 みなさまがそう思われるのも無理もないことだと思います。

 なにせ、あの、恐山。

 古くから日本人に知られる霊場でございますから、そこがどんなにおどろおどろしい場所であるか、それを知りたいと思っている方もたくさんおられることでしょう。「日本三大霊場」「日本三大霊地」「日本三大霊山」、そのいずれにもランク・インしているのは恐山だけであります。

 先にちょっとお伺いしておきたいのですが、みなさまの中で恐山に行ったことがある、という方はどのくらいおられますか?

 お、結構いらっしゃいますね。ありがたいことでございます。

 ならばそこがどのような場所であるか、おわかりの方も多いでしょう。足を運んだことのない方でも、テレビや新聞、雑誌などさまざまに紹介されているので、なんとなくイメージがあることかと思います。

 とにもかくにもまずは、あの風景です。その強烈な風景には圧倒的なインパクトがあります。

 ゴツゴツとした岩がむき出しのままいくつかの丘をなし、その裂け目からはモクモクと煙が噴き出ている。あたりはガスに包まれ、硫黄の匂いがツンと鼻を刺す。丘の上から南西に目を移せば、そこには湖があり、青く美しい湖面が広がっている。岸の砂浜には小石が積み上げられ、大量の風車が山上の冷たい風に吹かれて、カラカラと音を立てながら回っている――。

 まさにこの世の果て。他に類のない異形の風景に心を奪われることでしょう。

 そこに、伽藍(がらん)や山門、地蔵菩薩、巨大な卒塔婆(そとば)、燈籠といったお寺の設(しつら)えがある。

 それが恐山というところでございます。

 恐山といっても、そのような山が実際にあるわけではなく、正確には、火口にできた土地のことを指します。つまりカルデラなのですが、それは下北半島の中心であるむつ市から、恐山街道と呼ばれる山道を車でくねくねと20~30分登った先にあります。この先にはたしてそんな場所があるのだろうかと不安になるような細い山道を登っていくと、門が見えてきます。

「結界門」と我々は呼んでいますが、正式名称ではありません。「結界」とは、もともと僧侶の修行の場を言い、俗世界からの区別を強調します。その意味からすると、いよいよここから先は恐山の聖域であることをこの門は示していることになります。

 門をくぐり、しばらく進むと、突如バッと視界が開けて、左手にカルデラ湖の宇曾利(うそり)湖が見えてきます。その透き通った青い湖面はとても美しい。

 その湖から一筋、川が車道の方に流れているのですが、その名は、誰が付けたか知らないが「三途の川」。そこを渡れば「あの世」というわけです。他にも境内には、「賽の河原」や「血の池地獄」「無間地獄」など、「八大地獄」に見立てた場所があります。そのネーミングからして、衆生のみなさまを驚かせる気満々。またそう思わせるだけの風貌ですから、恐山と聞いて、おどろおどろしいイメージが湧くのも当然のことです。

温泉場としての恐山

 風景に目を奪われていると、突如強烈な硫黄臭が襲ってきます。あまり知られていませんが、恐山には大変良質な温泉があります。古く江戸時代の文献にも、恐山が湯治場として有名で、全国から人々が集まってきた様子が記されています。境内には四つの外湯と宿坊(寺院が管理する宿泊施設)内の大浴場があり、いずれも「源泉かけ流し」の、乳白色をした非常に泉質の高い浴場です。

 四つの外湯は、それぞれ「花染の湯」「薬師の湯」「冷抜(ひえぬき)の湯」「古滝の湯」と名付けられ、美肌や眼病、神経痛やリウマチなどに効能があるとされています。ちなみにこの外湯、参拝者は時間内であればどなたでも入浴することができます。余談ですが、数年前に秋田の温泉場で宿泊客が硫化水素中毒で死亡するという事件がありました。そんなことがあると、「恐山は大丈夫か」とジャンジャン電話が掛かってくるのですが、心配ありません。約10キロ四方のオープン・スペースに風がビュービュー舞っているわけですから、硫化水素で中毒になることはありません。

 しかしこの硫化水素、金属への影響は相当なものです。鉄や銅といった金属はあっという間に腐食してしまいます。お賽銭や公衆電話に使われた10円玉は、1日おけば真っ黒になってしまって、二度と町中では使えません。そんな具合ですから、電化製品はしばらく使うと軒並み不調になり、耐用年数は「下界」の何分の一。あそこで生活しているといろいろと不便なことがあります。

 9年前、現住職が一念発起して大きな宿坊を新築しました。宿泊客のための自動販売機があるのですが、「お釣りが出なくなった」なんていう質の悪い故障をすることもあって、苦情を受けることもしばしばです。

 私もコンピューターを1台持ち込みました。それが6カ月経つとどうなるかというと、ある日スイッチを入れた途端にブシュッと音がして、さらに画面から白い煙が出て、そのままおダブツ。携帯電話は、現在は部分的に電波が通じますが、持ち込んで3カ月ぐらいすると、液晶画面がだんだん薄くなり、そのうち真っ青になってプツンと切れる。一番弱いのはデジタルカメラです。これは1週間もするとレンズが勝手に出たり引っ込んだりして――それを「怪奇現象だ」という人もいますが、そんなワケはありません。ただの化学反応――そのまま動かなくなります。

 金属のアクセサリーなんてとんでもないことで、鉄もダメですよ。新築した宿坊は、ステンレスの釘を特注して使ったそうです。1本100円以上。建設には、平地の3倍ほどの手間と費用がかかったようです。とにかくそんな不便な環境であります。

 それから、恐山では自生していない木は根付きません。一時期、住職が山に彩りを添えようと桜の木を100本移植したのですが、根付いたのはわずか1本、なんて話も聞きました。

 まさにこの世の果て、といえる恐山の自然環境はかくも厳しいものです。私はここに来て、つくづく自然には勝てないということを悟りました。

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 住む場所としてはこのうえなく不便。観光地としてもグルメその他は期待できない。

 それでも数多くの人が訪れるのは、ここが「死者への想いを預かる場所」だからだ、と南さんはつづっている。

デイリー新潮編集部