秋の味覚「サンマ」の大不漁 たとえ「禁漁」しても漁獲高が回復しない深い理由

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大量に生まれても「餌がなくて死滅」が主因か

 サンマは太平洋のかなり広い範囲に分布している。豊漁が続いていた時期も、日本漁船がわざわざ足を延ばさない公海の遠い東沖で生息が確認されている。研究者は「外国も含め、漁獲されるのは全体のせいぜい2~3割」だという。

 その上、サンマは回遊しながら年中、広い海域で産卵しており、1匹が数千個の卵を産むことが分かっている。産卵後に「孵化してから1センチに満たない仔魚(しぎょ)が流される海域に、餌となるプランクトンが少ないことが多く、ほとんどが成長せずに死んでしまっているのではないか」と研究者は分析する。サンマの主な産卵時期や海域が特定できない以上、プランクトンの量を人為的かつ効果的に調整することはほぼ不可能に近いだろう。

 少なくとも、近年、サンマが不漁に見舞われているのは、これまでの獲り過ぎが直接的な原因とは言えないようだ。それを裏付けるように、過去に豊漁となった次の年も、1歳魚の群れが大量に日本の近海までやってきたことは何度もある。かつて漁業関係者は「獲っても獲ってもサンマは湧いてくる」とこぼしていた。

実績をはるかに上回る「漁獲枠」

 漁獲がサンマ資源に直接ダメージを与えていないためなのか、サンマの国際管理機関である北太平洋漁業委員会(NPFC)は、加盟国の総漁獲枠について、実際は獲り取り切れない量に設定している。このうち、日本のサンマ漁獲枠も今年は15.5万トンで、昨年の漁獲実績(約1万8300トン)をはるかに上回る、漁業サイドからの「期待値」ともいうべき数字となっている。

 研究者は、「漁獲が資源悪化の主な要因とは言えないが、資源状況をみながら一定の管理は必要」と話す。「獲っても増える、獲らなくても減るときは減る」といった傾向が強いため、サンマは漁獲枠でコントロールできる魚種ではないのかもしれない。その一方で、イワシは3年前から国内トップの漁獲量を示すなど順調に漁獲され、サバの漁獲も高水準。「うまくて安いサンマは、この先いつになったら食べられるのか」ばかりを考えるくらいなら、イワシやサバ、アジ、ニシンを塩焼きにしておいしく食べながら、気長に復活を待つのがよいのではないか。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。

デイリー新潮編集部

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