ウクライナ危機の長期化が世界の多極化をもたらす アメリカでじわりと広がる悲観論

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米国の立場に疑念

 ウクライナ危機はこれまで「自由や民主主義を守る戦い」と称されてきたが、紛争が長期化するにつれて、「国際秩序に変革が起きる」との認識が広まりつつある。

 ウクライナに一方的に肩入れした西側諸国に代わり、黒海の対岸に位置するトルコが仲介者として存在感を高めていることがその証左だ。実を結ばなかったものの、3月に外相レベルの停戦交渉が行われたのはトルコであり、8月の穀物輸出に関するロシアとウクライナ間の合意はトルコの仲介によって実現している。

 現在ロシアが占拠しているウクライナ南東部はもともとオスマン・トルコの支配下に置かれていた地域だ。ロシアと中国との「距離」が縮まりつつある中、その入り口にあるのがトルコだ。西側諸国が主導する国連が機能不全となり、世界が再び群雄割拠の時代に逆戻りすることになりつつある状況下で、地の利をいかしてトルコのような地域大国が影響力を持つようになっているのだ。

 米国メデイアも国際社会における米国の立場に疑念を投げかけ始めている。

 8月23日付米ニューヨーク・タイムズは「西側諸国の関心がウクライナに集中しているため、国連の人道支援機関は記録的な資金不足に直面している」と報じた。米国が主導する制裁のせいで深刻な打撃を受けている発展途上国の反発は高まるばかりだ。ウクライナ侵攻に中立を保つ国々の人口は世界の3分の2を占めるが、これらの国々の行動基準は民主主義の価値よりも自国にとって損か得かだ。

 米誌ナショナル・インタレストのコラムニストは8月23日「ロシアとウクライナのどちらが勝ったとしても、戦略的敗北を喫するのは米国だ」との分析を示した。「ロシアは中国やインド、ペルシャ湾岸諸国とより緊密な関係を築き、西側諸国と永遠に関係を絶つだろう」とした上で「米国は多極化が進む世界の現実に向き合わざるを得なくなるだろう」と悲観的な未来を予測している。

 ウクライナ危機の長期化により、米国一極時代の終焉が現実味を帯びてきている。日本もこうした国際政治の現実を直視しなければならないのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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