15歳から39歳までの日本人の死因の第1位は「自殺」 養老孟司と池田清彦が日本のいまを喝破する

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 共同通信は8月17日、東京大学などのチームの試算として2020年3月から今年6月までに、コロナ禍の影響で自殺者が8千人に上ると伝えた。

 コロナでの死者数よりも少ないではないか、と思う方もいるだろう。しかし、今年3月には、こんな研究結果も発表されている。

「(日本では)コロナ危機による追加的自殺によって失われた余命年数と、コロナ感染によって失われた余命年数は同じくらい」(COVID-19 AI&シミュレーションプロジェクトHP「コロナ禍における子供の超過自殺#2」より)

 つまり若い人の自殺が多いため、「人数」はコロナ感染での死亡者数よりも少ないかもしれないが、失われた「余命」を合算してみると、同じくらいの年数が失われた、というのだ。計算上はむしろ自殺によって失われた余命年数が若干上回る、とされている。

 新型コロナウイルスの検査陽性者数や死者数、あるいは重症者数は連日報道され続けている。それと比べると、この間の自殺者増についての伝え方はどこか淡々としている観もある。

 この状況を憂慮しているのは、解剖学者の養老孟司さんだ。養老さんは以前から、子どもたちの自殺や登校拒否といった問題に関心を持ち、著書などで自説を述べてきた。

 生物学者の池田清彦さんとの共著『年寄りは本気だ』では、二人の「年寄り」が子どもたちのことを心配して語り合っているパートがある。一種の放談だけに、ラフな物言いも目立つが、読んでほっとする人もいるのではないだろうか。同書から抜粋・引用してみよう。

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養老 このところ、「新型コロナウイルスで何人亡くなった」という報道が毎日盛んにされているけど、それをいうなら、15歳から39歳までの日本人の死因の第1位は自殺だよ。本当に人命尊重を目指すなら、そっちを考えたほうがいい。

 子どもの自殺でいえば、2020年度には、小・中・高校生の自殺者が499人で過去最多になった。理由はいろいろあると思うけど、子どもの場合、突き詰めれば、ハッピーじゃないからなんだ。子どもを幸せにしてやることほど簡単なことはないのに、それができない社会になっている。

〈それに対して、養老さんの長年の友人でもある池田さんは、自身の経験を振り返りながらこう切り返す。〉

池田 僕は高校生のころ、受けたくない授業があると、勝手にサボったり、早退したりしていた。それで高校が崩壊することもなかったんだから、行きたくなければ行かなくてもいいんだ。

 でも、今の子どもたちは、普段から規則や秩序を守るために自分の判断を抑えられてばかりいる。かわいそうだよ。「生きていても仕方ない」という子も結構いるというけど、中学生が死ぬことを考えるなんておかしいでしょう。

養老 考えないのが当たり前なんだ。僕らが学生のころは、少なくとも学童期の子どもには、自殺はないといわれていた。

池田 そうそう、いわれていた。

養老 江戸時代に子どもが自殺したなんていう話、聞いたことがない。

池田 親に殺されたやつはいてもな。

養老 今の子はやっぱり、ハッピーじゃないんだ。ハッピーな思いをしたことがない、ハッピーな記憶がないから死ぬわけでしょう。

池田 それは、一つには親の問題がある。人が生まれて最初の承認欲求は親が満たしてくれるものなのに、親自身が精神的に子どもだったりして、自分の子をちゃんと承認してあげられないんだ。それで子どもの中に欲求不満がたまってしまう。

 子どもは、何かあるたびに褒めてやればいいんだよ。うちの隣の家に2歳と3歳の子どもがいて、夏になると毎日外にプールを出して、フルチンになって遊んでいる。僕が出て行くと、「池田先生、見て、見て!」。「見てるよ。すごいね。面白そうだね。水鉄砲やってみて」と言うと喜んで、しばらくそれに付き合わざるを得ないんだけど(笑)、その「見て、見て」も承認してくれということでしょう。そういうとき、大人に「楽しそうだね」「すごいね!」と言われたら、うれしいじゃない。あの子たちは、自殺なんてしないと思う。

 でも、今は、そういう子どもの欲求に付き合う親も隣近所の人たちも減ってきた。それどころか、親が子どもをいじめるとか、ほったらかして餓死させるとか、信じられないことが起きている。

養老 (略)今はコロナの問題もあって、昔よりさらに子どもを管理するようになっている。よく人権なんていうけど、日本の社会では子どもの人権は認められていないんだ。

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 マスク生活が続いたために、今や子どもたちはマスクを着ける生活に順応し、違和感を抱かなくなったともいう。そんなニュー・ノーマルが定着することは、子どものためになるのか。本気で考える時期なのかもしれない。

デイリー新潮編集部

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