「刺し身」を載せた蕎麦やそうめんは、夏の新定番になるか

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 暑さで食が細るこの時期、「蕎麦かそうめんなら」と、薬味をたっぷり入れた冷たいつゆに麺をくぐらせて、「つるっ」とひと時の涼をとることも少なくないだろう。物足りなさを感じたら、天ぷらなどを一緒にほおばるのもいいが、では、蕎麦やそうめんに“生魚”を合わせるのはどうか――。「それは無理かな」と、怪訝な表情を浮かべる人もいるかもしれない。「白飯に刺し身」はもちろん王道の食べ方だが、魚介系のつゆで麺類といただく生魚も、決して悪くない。いや、むしろ「あり」と言えるのだ。【川本大吾/時事通信社水産部長】

 なぜ、蕎麦やそうめんを刺し身とともに食べることをお勧めするかというと、このところ、インターネットの料理サイトで取り上げられるようになったことに加え、都内の蕎麦専門店でも扱われるようになり、徐々に人気を集めつつあるからだ。

旬の魚を蕎麦に一緒に

 東京・築地(中央区)の蕎麦店「築地さらしなの里」では、これまでも、春に旬を迎えるタイや、冬の寒ブリの刺し身を、温かいつゆを注いだ蕎麦の上に載せて提供してきた。馴染みのない方は、鯛茶漬けやブリしゃぶをイメージしてもらうといいかもしれない。蕎麦をすすりながら食べる刺し身は、サバ節のだしが利いたつゆとの相性も良く、わさび醤油とは一味違った乙なもの。
 
 この店の店主・赤塚滋行さんによると、「最近、都内では温かい蕎麦だけでなく、冷たい蕎麦にも刺し身を載せて提供する店が出てきた」という。自身の店でも今後、秋には冷たい蕎麦にマツタケと湯引きしたハモを、春には初ガツオの刺し身を蕎麦と一緒に盛り、冷たいつゆをかけて食べる“ぶっかけ”タイプのメニューを提供していきたい」と意気込んでいる。
 
 まだ一部とはいえ、必ずしもミスマッチとは言えない蕎麦と生魚。このような食べ方が浸透してこなかったのはなぜだろうか。

 蕎麦屋で魚といえば、京都などの名物料理である「ニシン蕎麦」があるが、都内ではそれほどメジャーではない。そもそも魚介自体、エビ天やかき揚げの小柱、小エビくらいしか蕎麦の上には載らない。

蕎麦屋にとって魚はご法度!?

 江戸の食文化の代表でもある蕎麦と魚介。このふたつに接点が少なかった理由について赤塚さんに尋ねてみると、「少なくとも30年ほど前まで、蕎麦屋は魚を扱うものではないという見方が広がっていた」と話す。

 その要因はいくつかあるようで、老舗であるほど、(1)食材の仕入れ先として鮮魚店とのつながりが薄かった、(2)蕎麦を提供するための厨房に、魚をさばくためのスペースがなく、職人がいなかった、(3)魚介を合わせると蕎麦のメニューとして割高になってしまう、といった理由が挙げられている。

 だが、食の多様化に伴って、外食の競争も激化。立ち食い蕎麦に行列ができる一方、専門店では売り上げ確保への自助努力が必要になり、酒類を増やしたり、蕎麦単品のほかにセットメニューを追加したりする試行錯誤のなかで、蕎麦店でも魚も扱うところが出てきたようだ。

 すでに都内では“そうめん”にさまざまな生魚を合わせて、人気を呼んでいる店もある。東京・新宿駅の南口から近い、「小田急ホテルセンチュリーサザンタワー」の19階に店を構える「阿波や壱兆」(東京都渋谷区)は、そうめん専門の店。そうめんを看板メニューとして提供する店はほとんど見かけないが、この店では一般的なものよりやや太く、食べ応えがある徳島県名産「半田そうめん」を、さまざまなメニューで提供している。

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