帰省をきっかけに恋心が再燃して… 無意識のうちに不倫を始めてしまった52歳男性の恐怖体験

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不倫という自覚のない晴敬さん

 晴敬さんが30歳のとき結婚した2歳年下の美知子さんは、「ごくごく普通の女性」だという。友人の飲み会で出会い、1年半ほどつきあって結婚した。美知子さんの両親による物心両面の支援があったからこそ、共働きを続けることもできた。

「美知子は冷静で穏やかなタイプです。彼女がパニックになったのは上の子が急病になったときだけ。それ以外であわてふためいたところを見た経験はありません。感情の浮き沈みがないので一緒に生活するには最適ですね。同僚や、学生時代の友人などから、『うちの奥さんの機嫌が悪いんだよね』と聞くことがあるけど、僕はそういうふうに思ったことがない。比較的、何でも話し合うようにはしてきたけど、家庭がうまくいっているのは妻によるところが大きいでしょうね」

 妻は自分を疑ったこともないだろうと晴敬さんは言った。端から見れば幸せ者だ。ただ、それを幸せだと気づけなかった。彼は自分が恋にはまっていることにも意識的ではなかった。今まで何の問題もなく継続してきた家庭と、彩里紗さんとのことは彼の中ではまったくの「別物」だったので、自分が不倫していることさえ無意識だった。

「いいとか悪いとか考えたこともなかった。独身時代に忘れてきたものが手に入った。そんな感じだったのかなあ。ごく自然ななりゆきとしか思えなかったんですよね」

突然の電話に出られず…

 なんとなく雲行きが怪しくなってきたのは、翌年の梅雨のころだった。

「彩里紗のお母さんが亡くなったんです。しかも急だった。その日は彼女の仕事が休みで、朝食を一緒にとったあと、彼女は買い物に出かけたそう。帰宅したらいつもはリビングにいる母親が自室で寝ていた。しばらくそのままにしておいたけど、なかなか起きてこないので様子を見に行ったら、すでに息をしていなかった、と。あわてて救急車を呼んだそうですが、病院に搬送はされず、警察が来たと言っていました。そのとき彼女は僕にも連絡してきていたんですが、僕は重要な会議中で、出ることができなかった」

 夕方、電話をしたが、今度は彼女が出なかった。連絡がついたのは夜になってからだった。彼は翌日から出張だったため、通夜にもお葬式にも列席できなかった。もちろん、もしできたとしても、駆けつけたら地元で噂になっていただろう。

「彼女は『出張なんて聞いてない。私がこんなに大変なときに来てくれないなんて……』と泣くんです。そう言われても、僕は困惑するしかなかった。妻の両親なら無条件に駆けつけるし、会社でも忌中が認められるけど、不倫相手の親が亡くなっても行けないのが普通でしょ。あのとき、彼女に違和感を覚えたのは確かですね。この関係をどう考えているんだ、と。同時にそれによって、あ、オレは不倫しているんだと自分でもやっと認識したんだと思う」

 お葬式をすませた彼女から、改めて連絡が来たとき、彼は行けなかったことを詫びた。彩里紗さんは泣きながら「いいの。わがまま言ってごめんね」と言った。だが、彼の「違和感」は消えなかった。母親がいなくなったことで、彼女が一気に自分に心を寄せてくるような予感があった。

 四十九日がすみ、彼女は一度だけ東京にやってきた。沈んだ様子が気にはなったが、「こういうことは順番だから、しかたがないよね」とつぶやいた彼女をそっと抱きしめたとき、彼女の身体が薄くなっているような気がしたそうだ。

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