「老人ホームは現代の姥捨て山」 利用者が気を付けるべき施設の「キラーワード」は? プロが明かす

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現代の姥捨て山

 いずれにしても、金銭的事情から親自身による早期自主入居という選択肢はほとんど消えます。そして認知症の症状が出始めるなどして、もうこれ以上、親の面倒を見るのは無理となった段階で、焦り、切羽詰まって、追い込まれた形で子どもたちが老人ホームにすがる。その状況で「最後まで面倒を見ます」と言われれば、子どもが「助かった」と思うのは無理からぬところもあるのです。

 その際に入居者(=親)と老人ホームのミスマッチ、つまり親が望んでいるサービスと、施設が提供するサービスに齟齬が生じても、実は子どもはさほど気にしません。それはなぜか。

 残酷な言い方になりますが、老人ホームに入るのは子どもではないからです。自分が入るわけではないので、親が多少不満を言っても、「それくらいのことは我慢してよ」となる。私の体験上、子どもが気にするのはとどのつまり、「で、おいくらですか?」ということに尽きます。

 これまで見てきたようなさまざまな事情から、老人ホームは、事実上の現代の姥捨て山と化してしまっているケースが多い。姥捨て山、それは一度その老人ホームに入居したら、いや入居させたら、死ぬまでそこに居続けさせる「入居老人ホーム=終の棲家」という発想です。

キーワードは「転ホーム」

 しかし、私はこの終の棲家の考え方は間違っていると思います。誰が、一度その老人ホームに入ったら二度と出てはいけないと決めたのでしょうか。

 そこで勧めているのが、「転ホーム」です。入居した老人ホームが入居者に合っていなければ、合っているところに転居する。あるいは、施設に入った親を、状況によっては再び自宅に呼び戻してもいいはずです。

 しかし終の棲家発想にとらわれている人は、一般的に聞きなれない転ホームなどということがそう簡単にできるのか、と疑問に感じることでしょう。包み隠さずに結論を言えば、簡単とは言い切れません。けれども、「転ホーム術」がないことはない。それを知り、学べば、転ホームは可能なのです。

 例えば金銭面。入居時点で、先ほど述べたように場合によっては数千万円もの入居一時金をとられることもありますが、最近は入居一時金そのものをとらない老人ホームが増えています。

 経済的にごく一般的な家庭の場合、高額な入居一時金を払ってしまうと、他のホームに移ることは現実的に不可能になってしまう。ですから最初の入居時点で、入居一時金がない老人ホームを選ぶことが大切になってきます。入居一時金を払う必要がなければ、金銭面での問題で残るのは転ホームのための引っ越し費用のみです。数千万円の入居一時金と、数万円から数十万円の引っ越し費用では、その負担の軽重は一目瞭然です。

 現代の姥捨て山と化している老人ホームの概念を変え得る、転ホームという新たな発想――。後編(老人ホーム選びで「口コミ」が役に立たない理由 「24時間看護師常駐」は意味がない?)ではより詳しく、転ホームについて、そして老人ホームの具体的な選び方を紹介していきます。例えば「24時間看護師常駐」を謳(うた)う老人ホームは果たして……。そんなお話をしたいと思います。

後編を読む(老人ホーム選びで「口コミ」が役に立たない理由 「24時間看護師常駐」は意味がない?

小嶋勝利(こじまかつとし)
老人ホームコンサルタント。1965年生まれ。不動産開発会社勤務を経て、介護付き有料老人ホームで介護職、施設開発企画業務、施設長を経験。2006年に有料老人ホームコンサルティング会社を設立。現在、公益社団法人「全国有料老人ホーム協会」の業務アドバイザーを務める。『間違いだらけの老人ホーム選び』等、著書多数。

週刊新潮 2022年7月28日号掲載

特別読物「『姥捨て山』にしないためには!? 『高齢者』と『その子ども』が知っておきたい 『老人ホーム』の現実と『転ホーム術』」より

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