「ロッキー」のモデルと呼ばれる無敗の王者「ロッキー・マルシアノ」 23歳でプロ入りした苦労人生(小林信也)

  • ブックマーク

Advertisement

 シルベスター・スタローンが主役を演じ、世界的大ヒットとなった映画「ロッキー」が公開されたのは1976年。アメリカが建国200年祭に沸いた年だ。無名のボクサー、ロッキー・バルボアが、世界ヘビー級王者アポロ・クリードの挑戦者に抜擢され、圧倒的不利の予想を覆し大善戦する物語。

 この映画には、二人のモデルがいるといわれる。ひとりは、75年3月、王者モハメッド・アリに挑戦した白人ボクサーのチャック・ウェプナーだ。

 当時スタローンは、俳優を志しながら幾度受けてもオーディションに受からず、用心棒などの仕事で食いつなぐ、貧しい若者だった。28歳の春、テレビで見たアリ対ウェプナーの一戦に激しく触発された。テレビの中のウェプナーが自分そのものに見えた。

 ウェプナーもまた恵まれた生活とは無縁の少年だった。ニューヨークのスラム街で育ち、少年院と刑務所に服役中にボクシングを覚え、プロでデビューしたのは出所後の25歳の時だ。何度か敗北も経験しながら、6年後には元世界王者ソニー・リストンと対戦する。判定で敗れたが、これがリストンの生涯最後の試合となった。

 それから5年後、8連勝の成績を引っ提げ、アリの挑戦者に選ばれる。すでにウェプナーは36歳。ボクサーとしては老いぼれもいいところだった。そのウェプナーのパンチが9回、アリの脇腹に突き刺さり、ダウンを奪った。その瞬間、スタローンの中に強烈なエネルギーが沸き上がった。同時に、ひとつのドラマが浮かび上がった。そして、「3日で脚本を書きあげてプロダクションに売り込んだ」といわれる映画「ロッキー」が誕生した。

次ページ:断たれた野球の夢

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。