統一教会に5億4700万円奪われた女性の人生 「縄文時代の祖先」まで持ち出す強引な論理とは

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縄文時代の分まで献金せよ

 文鮮明は1999年より、「新しい成約時代に天国に入籍するためには必ず自分から7代前までの先祖からはじめ、最終的には120代まで解怨しなければならない」と語っている。

 解怨とは怨みを解くという意味であり、韓国文化には恨プリ(プリは解くの意味)といって遺恨を晴らすことを思想や民俗文化、あるいは政治行動の動機付けにも用いることがある。しかし、日帝支配や韓国の独裁政権下で憤死した人々や、それゆえの貧困や不遇の生活を送った人々の怨み(恨み)は当然として、なぜ、日本人を含めて人類全てが恨プリをしなければいけないのか。不平不満を託つことなく静かな人生を送った、多くの先祖がいたのではないか。 

 このように考えれば常識人であるが、統一教会の意図は恨プリの擬態による資金稼ぎにある。ただで解怨(恨プリ)はできないのだ。1家族につき、父方・母方のそれぞれのさらに父方・母方、計4家系の先祖解怨が必要とされるが、それには1家系につき日本では70万円、計280万円、韓国では1家系につき5万ウォン程度の献金を要求される。

 統一教会において韓国人は霊位が高いので数千円の献金でも許される。遡ること8代目以上の先祖についても7代ごとに解怨するのであるが、献金額は日本の場合、3万円に増額される。理論上、120代目までの解怨を行うと、初回を含めれば計17回が必要になる。その場合、初回に280万円、4家系で12万円を17回で204万円の費用がかかることになる。

 文鮮明が言うように120代まで遡るとなると、1世代30年として3600年前まで遡ることになり、日本は縄文末期に相当する時代である。日韓両民族は半島を往来し、血縁をともにしていた可能性すらある。そこまで行き着かなくとも、同じ日本人同士、先祖がどこかで交わり、ダブって献金されることもあろう。しかし、その可能性故に統一教会信徒たちに払い戻しがあったという話は聞かない。

 2006年の第761次特別修練会では、大母様(文鮮明の母)が「真の父母様(文鮮明)が先祖解怨式を210代までしなさいと言いました。“家族”たちが210代まで行うと、211代以降は霊界の真の子女様を中心とした絶対神霊たちがアダムとエバまで神様の血統につながれるように準備しておいてくれます」と霊界からメッセージを寄せたらしい。210代は6300年に相当する。なるほど、私たちはこのようにして人類の始祖、アダムとエバにたどりつけるわけだ。

 さて、解怨を受けた先祖は、霊界にある興進(フンジン)様の修練所に行き、100日間の修練を受けるという。興進は文鮮明の長男で事故死した。その後、天総官という霊界総司令官になったといわれる。先祖解怨献金を納めない信者の先祖は「興進様の修練所」に行くことを待ちわびている。だから、信徒は清平に行って献金しなければならないのだ。

日本の悪霊は他国の悪霊よりも恐ろしい

 Bさんは自分から7代前までの4家系の先祖解怨に280万円を納め、それ以後も清平を来訪するたびに献金を行っていた。そこで幾度となく役事と呼ばれる儀式に参加した。

 役事とは統一教会の専門用語であり、天使の助けをかりて体内から悪霊を追い出すという意味で最も一般的に使われている。しかし、より抽象的には、天界(霊界)と地上(現実世界)の間に交流を起こそうという儀礼である。清平においては、金孝南(キムヒョウナム)という霊能者に大母様が再臨し、霊界のメッセージを伝え、先祖の霊を救い出すのは清平の役事しかないことを強調する。

 Bさんが記憶している金孝南の典型的な語り口は次のようなものである。

「日本人は、かつて、韓国を侵略し、植民地にした。従軍慰安婦や強制連行で、韓国の人々、特に女性たちにたくさんの苦しみを与えた。その従軍慰安婦や強制連行された女性の霊が日本人女性に乗りうつっている。だから、日本にいる悪霊は、他の国の悪霊よりも恐ろしい」

 このようなメッセージの後に、金孝南は講堂に参集した数千の信者に対して、聖歌を歌いながら体中を叩き、体の中に入り込んでいる悪霊を追い出すよう命じる。すし詰め状態で座っている前の人の背中をそれぞれ力いっぱい叩く。Bさんも、「本気で叩かないと悪霊は出ていかない」と言われたために、前の人の背や肩を力いっぱい叩き続け、自身も後の人から叩かれた。壇上には興奮した(霊につかれた)若手の信者が上って踊り出したり、精神的に不安定な人が泣き叫んだりと、まさに悪霊が飛び交ってでもいるような情景が現出する。よく従軍慰安婦の霊が女性信者についたという。その場合は金孝南が除霊した。

 およそ3時間続く役事の合間に、信者たちは文鮮明の説教を聞く僥倖(ぎょうこう)を得ることもあった。文鮮明は日本語で語りかける部分もあるのだが、途中休憩を入れながら、夜中の2時3時まで数時間にわたって語り続け、信者のもうろうとした意識の中に霊界話が焼き付けられていく。

 ***

 Bさんのストーリーは、統一教会が多様なテクニックを駆使して信者をだましていった様をわかりやすく示しているといえるだろう。

 それにしても縄文時代まで持ち出して献金を求める姿勢にどこかで疑問を持たなかったのか。そしてなぜ献金額は5億円超にまで膨れ上がったのか。

 Bさんのその後の人生については次回、触れることとしよう。

※引用はすべて『霊と金―スピリチュアル・ビジネスの構造―』より

デイリー新潮編集部

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