統一教会に5億4700万円奪われた女性の人生 「縄文時代の祖先」まで持ち出す強引な論理とは

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統一教会との出会い

 Bさんは1938年関東地方に生まれ、1961年に東京近郊の農家に嫁ぎ、3人の子供に恵まれた。しゅうとめは1969年、しゅうとは1975年に、それぞれ50代、60代で亡くなる。夫は42歳の時に脳溢血で半身不随となり、1990年に51歳でがんを患い亡くなった。

 都市近郊農村では、市街地が拡大するなかで農地が宅地や商業地に造成された。Bさんの家でも先代の時に農地の一部が都に買い上げられ、夫は数億円の遺産を相続したが、Bさんは夫の死後も農業と子育てに多忙な毎日だった。

 Bさんが見知らぬ若い女性(統一教会員)の訪問を受けたのは、1991年であった。たまたま家にいた彼女は、「手相や姓名判断に興味はないか」という話を訝(いぶか)しく思いながらも、畑仕事をするにはあいにくの天気だったので、2時間ほどの間運勢をみてもらい、問われるままにふだん気にしていたこの家の人たちがどんどん若くして亡くなっていることなどを話した。そうするとこの女性から手相・姓名判断を勉強するところで先生にみてもらうことを強く勧められ、駅前のマンションの一室に連れて行かれた。

「預金はいくらあるのか」

 そこでビデオ(家系や先祖の因縁の話)を視聴した後に、先生と呼ばれる女性から、「B家の家系は衰退しつつある。長男に男の子が生まれたのは奇跡に近い」と言われ、さらにB家が3代の間に寿命をほぼ10年ずつ縮めていることなども指摘された。先生がここに通って勉強するよう勧めるので、Bさんは自分を連れてきた女性に「ここは宗教ではないか」と確認した。しかし、違うということだったので不安ではあったが、家系の因縁も気になるので少しだけ通ってみることにした。

 1カ月後、先生は「財には因縁が付いているから聖塩で清めなければならない、預金はいくらあるか」と尋ねた。1千万円くらいはあると答えたところ、別の勉強する場所を紹介された。そこの鑑定士の先生いわく、「家系衰退の原因は、B家の多くの財産に問題がある。人の恨みがあるかもしれない。先祖の徳がある間は守られているが、それがなくなってきたので、あなたが穴埋めのために徳を積まなければならない」

 この後、先生はBさんに1千万円の借用を申し込み、応じてもらえるまで何度も財の因縁の話を繰り返した。Bさんは根負けして貸すことにした。3カ月後に、ここが統一教会であることを明かされたが、Bさんは「先祖の因縁という話に取り込まれていたので反発することもできなくなっていた」という。1千万円の借用に関しては、年内に400万円が返されたが、「B家の財の因縁を解くためには600万円を献金にして天に捧げてほしい、そうしないと息子と孫にどんな災難がふりかかるか分からない」と言われ、不安におそわれ献金を承知した。これ以降、Bさんは統一教会に対して、2003年までに40回近くの献金を繰り返すことになる。

家系の不思議

 先祖の因縁の説明は、先生が献金の時だけ話したわけではない。Bさんは統一教会信徒が運営するビデオセンターで何種類もの家系の因縁に関するビデオを視聴した。私たちは、目の前で話されることよりも、新聞や雑誌で活字として読んだものや、テレビなど映像で見たものに影響されやすい。家系図や因縁を説明する講師は画面から語りかけることでより専門家らしくなる。統一教会が教育用に用いた「家系の不思議」というビデオでは、次のような内容が語られた。

(1)善因善果悪因悪果の応報的宿命観――不幸には先祖の因縁があるとされ、因縁転換の方法へと話が進む。

(2)縦横の法則――先祖の因縁(縦の原因)は兄弟姉妹(横の結果)にまで及ぶ。

(3)悪因縁の形成原因――五つあるとされ、1・離婚、再婚、2・庶子、3・同棲、4・初婚男性と連れ子のまま再婚、5・別居である。

先祖の色情

(1)に関して、統一教会信徒が強調するのは「先祖の色情因縁」である。Bさんの何代も前の先祖は身持ちが悪く、女性を泣かせたという。その因縁が子孫に出ると言われた。霊能の鑑定だから何でも分かるそうだ。

(2)に関連しては、B家では、夫の弟3人がそれぞれ、4歳、2歳、0歳で亡くなっている。2人の妹も3歳で亡くなっている。確かに、5人も兄弟姉妹が相次いで亡くなるということはまれである。ただし、亡くなった年は、昭和16年が1人、昭和19年が4人である。ついでにいえば、夫の叔母もこの間に相次いで亡くなっている。太平洋戦争の末期、栄養状態が極度に悪く、大空襲にも見舞われた東京であれば、多くの人が難儀な生活をおくっていたであろう。

 しかし、亡くなった事実のみ指摘されてBさんは納得してしまった。「私としては子や孫の命のことを言われると、心配だっただけに本気で何とかしないといけないと思い、言われるとおりにするしかなかったのです」とまで思い詰めるに至ったのである。

(3)についても補足しておこう。戦前の家制度が支配的な時代では、子供がないことを理由にした離縁や婚外子を持つことが認められていた。庶民は離婚・再婚も比較的自由に行っていたのである。それが悪因縁になると言われる。現代のように離婚率が上昇し、同棲も目くじら立てるほどのこともない時代となれば、親類縁者をたどればどこかに悪因縁があることになる。誰もが該当する恐ろしい因縁の説明ではないか。ちなみに、再臨主である文鮮明ですら離婚・再婚を経験し、婚外子の話もある。誰がこの悪因縁を清算するかは謎である。

清平の修練会

 統一教会信徒になると霊界は、現実世界同様リアルなものとなる。先祖を弔い祭るようにこの世からあの世に働きかけることもあれば、あの世から先祖や諸霊がこの世の私たちに働きかけることも多いという。こうした教えは本で読んだり、説教を聞いたりするだけでは身に付かない。実際に霊界を体験することが大事である。それを説明しよう。

 Bさんは、1994年から2003年までの間に計17回渡韓し、統一教会の研修施設である天宙清平修練苑には13回、その他各種修練会にも参加している。

 天宙清平修練苑とは風光明媚な山峡である京畿道加平郡の張洛山に位置する統一教(韓国では統一教で通っている)「清平聖地」に立つ修練会施設である。ここには、文鮮明を記念・顕彰する「天正宮」があり、2006年文鮮明が天宙の王に即位する戴冠式と入宮式が行われた。大修練会が開催される天城旺臨宮殿は、地下2階、地上3階、約5700坪の建物であり、一度に8千人を収容する大聖殿と1600人が食事できる大型食堂があるとされる。

 ここでは、統一教会信徒向けの40日間修練会や、短期の各種修練会が行われるが、Bさんが参加した「先祖解怨式」と「役事」についてのみ解説しよう。

 統一教会の教えによれば、人間は死後「霊人体」となって霊界に行く。原罪をもったままの霊人体となった祖先は地獄で永遠の苦しみを受けているのであるが、地上の子孫の善行により、功徳が祖先に転送され、祖先は安らぐのだという。ところが、このことを知らずに功徳を送らなかった人は死後、霊界で祖先の霊たちに責められる(讒訴される)。

 この教えの前半部分は、祖先崇拝と混淆した東アジアの仏教や東南アジアの上座仏教にも見られる先祖供養の観念である。しかし、後半部分は統一教会独自の論理である。

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