「我が子や孫を不幸にしている」 5億円以上「統一教会」に献金した女性の目が覚めた瞬間

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 統一教会に5億4千万円余りの献金を求められ、その後訴訟によって2億7千万円の返金を勝ち取った元信者のBさん。

 言葉巧みに勧誘され、強引な論理で大金を求められるようになった経緯は前回の記事でご紹介した。

 それにしてもなぜ5億円以上にまで献金額は膨れ上がったのか。なぜBさんの信仰が長く続いたのか。何がきっかけで目が覚めたか。

 前回に引き続き、宗教学者の櫻井義秀氏の著書『霊と金―スピリチュアル・ビジネスの構造―』から見てみよう(以下、引用はすべて同書第2章「統一教会と霊感商法」より)。

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信仰継続のわけ

 Bさんが信仰心を持続させた要因は二つある。一つは、霊界への恐怖と自分が先祖を祭らなければ先祖と子孫もろとも地獄に行くという切迫感であった。このような心境に至ったのは、統一教会信徒の霊能師たちのメッセージを繰り返し受け、家系の因縁などのビデオを視聴し、統一教会の研修施設である天宙清平修練苑の修練会で衝撃的な経験を重ねてきたからである。もう一つは、Bさんを取り巻く統一教会信徒たちによる励ましや人間的ふれあいであった。より正確に言えば、篤志家としてVIP待遇を行うことで、Bさんが献金要請に疑問を持ったり、やめたりしないように何とかつなぎ止める工作が12年も続けられてきた。

 数百万円、数千万円の献金要請には心理的プレッシャーがかけられ、数十万円単位のものではソフトなお願いや、Bさん自身の判断に任せる(といっても先祖は常に新たな祭りを求めていると言われた)という形で、総額5億円を超す(最終的に2億7620万円分が違法に献金させられたものと裁判所は認定)献金がなされた。

 強烈な心理的圧力をかけずにソフトなお願いだけで、どのようにして献金させることができるのだろうか。統一教会において信徒は統一教会特有の言い回しを駆使して会話する。年季の入った信徒ほど統一教会の用語と論理の枠組みで議論を展開するし、それには誰も反論できない。そのため、古参信者や幹部はもとより、新参の信者もまた同じ言語でコミュニケーションするなかで、一つの言語に一つの感情、一つの言い回しに一つの論理が自動的に連結するようになる。

 Bさんは長らく統一教会と関係を持つなかで、このような自動化された感情・論理の伝達手段に慣らされてきた。もちろん、他の統一教会幹部や信者のように人を動かすために統一教会用語を駆使する指導的立場に立ったわけではない。もっぱら受け身で行動を促される立場であった。統一教会は特段の脅迫的言動を用いずとも、Bさんにとって救済のキーになりうるプッシュの言葉を語ることで献金させることができたのである。

 そんなことがあるのだろうかと訝(いぶか)る人もいるかもしれない。しかし、私たちはこうしたことを日常生活や職場、専門家集団において経験している。専門家はそれぞれの分野ごとに独特の言語と論理を共有しており、2、3の専門用語を話すだけで関連する事柄や背景的知識、問題の解決法まで頭に浮かんでくる。専門家集団といえば宗教集団も同じである。統一教会のような閉鎖性の強い集団に入るとなかなか抜けられなくなるのは、教団が物理的な障害(見張りやスケジュール管理)を置くからではなく、認識の構図や言語体系までも統一教会独特のものしか使わないよう訓練してしまったために、外部の人たちとコミュニケーションができなくなり、外へ出ることを信者自身がためらうようになるからだ。

 私たちの日常生活では、同じ人が職場と家庭、趣味のサークルや所属団体ごとにそれぞれのボキャブラリーや考え方を適宜使い分けるものだ。ところが、統一教会の論理だけで回る生活が長期に及んだ一般信者や、祝福家庭を形成した家族は、統一教会の思考の枠から抜け出すことをおそれ、自縄自縛の状態が継続するのである。

家族の説得がきっかけに

 Bさんは2003年に統一教会を脱会した。きっかけは家族の説得であった。

 Bさんの子供たちは、多額の献金がなされている事実を知り、統一教会をやめて元の母親に戻ってほしいと真剣な話し合いを持った。次男の「仕事を辞めてもいいのでじっくり話したい」という並々ならぬ決意を感じて、Bさんは子供たちと数日間話し合いを行い、統一教会の実態を知らされたのである。

 その間、子供たちは話し合いに専念するために孫3人をよそに預けていた。Bさんと子供たちとの話し合いが終わり、連れてこられた孫たちが親にすがりついて泣いている様を見て、Bさんは孫たちに寂しい思いをさせてしまった自分の姿が客観的に見えたという。つまり、自分は子供たち、孫たちのためによかれと思ってやってきたことだったが、そうではなかったのではないか。これほどまで子供や孫たちを悲しませてしまった自分の愚かさと申し訳なさに涙し、その瞬間に統一教会のおかしさが分かったと語る。

 一般的に、統一教会信徒が脱会する道筋は大きくわけて三つある。

 第一に自主脱会。教団への疑念が膨らみ継続しがたくなるもので、入信初期に辞めるパターンが多い。

 第二に教団からの追放。統一教会の日刊紙「世界日報」の編集局長であった副島嘉和は、本部との路線対立から解任され信者の籍を抹消された後、「文藝春秋」(1984年7月号)に統一教会の暴露記事を掲載した。その直後、暴漢に襲われ重傷を負ったが、このようなケースはまれである。

 第三に、Bさんのように家族の話し合いにより認識の枠組みや生活態度が統一教会モードから現実生活のモードに一変するというパターンである。俗にマインド・コントロールが解けるともいい、長期間信者であった人が辞めるケースとしては一番多い。

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 多額の金をだまし取られたとはいえ、Bさんは家族の必死のはたらきかけによってマインド・コントロールから抜け出すことができた。「これほどまで子供や孫たちを悲しませてしまった自分の愚かさと申し訳なさに涙し、その瞬間に統一教会のおかしさが分かった」――こんなふうに気付いてもらいたいと願う家族は今でも多くいるのではないか。

※引用はすべて『霊と金―スピリチュアル・ビジネスの構造―』より

デイリー新潮編集部

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