安倍元首相と北朝鮮 本人が明かしていた、5人の拉致被害者を巡る田中均氏との激論

国内 政治

  • ブックマーク

Advertisement

朴槿恵への不信

 韓国の朴槿恵元大統領への不信を口にしたこともあった。

「まだ若い頃、日本に来ると祖父の岸信介元首相や父親が、温かくもてなし交流した。私もお相手した。それなのに、大統領になったら当時の恩義も忘れている」

 私は、朴槿恵の立場と事情を説明した。

「父親の朴正煕大統領暗殺後に、側近たちが手のひらを返したように、朴正煕の悪口を言い出した。自分をチヤホヤした人ほどひどかった。田中真紀子氏と似た境遇だ。大統領就任後は、父親の時代の人権侵害や拷問事件などで謝罪させられ、日本と親しい姿勢を見せれば親日派と攻撃された。義理と人情は薄く、世話になった人も平気で捨てる韓国人が信用できなかった。父親を全面否定した金大中への怨念だけが、政治行動の原点だ」

 安倍元首相は、夫人が問題にされ、内政が揺れた。国会でのヤジも大人げなかったが、いわゆる腹黒い自民党政治家と違い、率直に感情を表す子供っぽい、正直な性格であった。夫人を愛していたから、何をされても受け入れた。

 安倍元首相は安全保障や朝鮮問題では、はっきり発言するので、「好戦的」と誤解もされたが、基本は平和主義者で愛国者だった。

「国家の指導者には、国民の命と平和を守る責任がある。夜も眠れないこともある。首相には、戦争で犠牲になった兵士を弔う責任がある。首相の間は、靖国神社に参拝はしない。
 戦争は2度とさせない。このために、世界の指導者たちと常に交流し、相手の意向を直接聞き、こちらの意向をはっきり伝え、信頼関係を構築し誤解を生まないのが大切だ」

 安倍元首相は、台湾への協力を表明し「台湾の危機は日本の危機」との立場を明らかにした。大阪でのG20首脳会議では、食事の席で習近平主席をトランプ米大統領と安倍首相が挟む形で座った。食事の間中、トランプと二人で習近平に台湾問題の平和的対応と、新疆ウイグル自治区の人権問題解決を説き続けた。その記憶があるから、習近平も心の込もった哀悼の言葉を送ってきたのだろう。

重村智計(しげむら・としみつ)
1945年生まれ。早稲田大学卒、毎日新聞社にてソウル特派員、ワシントン特派員、 論説委員を歴任。拓殖大学、早稲田大学教授を経て、現在、東京通信大学教授。早 稲田大学名誉教授。朝鮮報道と研究の第一人者で、日本の朝鮮半島報道を変えた。 著書に『外交敗北』(講談社)、『日朝韓、「虚言と幻想の帝国の解放」』(秀和 システム)、『絶望の文在寅、孤独の金正恩』(ワニブックPLUS)など多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。