「会うたびにドラマの話を」 安倍元総理の知られざる素顔を櫻井よしこが明かす

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「憂国の政治家」として論陣を張る一方、会えばその人柄に魅了される人も多かったという。「座談の名手」とも称された安倍元総理と親交が深かったジャーナリストの櫻井よしこさんが、訃報に際して思い起こされる数々の交流秘話を、本誌(「週刊新潮」)読者のためにつづってくれた。

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 凶弾に斃(たお)れた安倍晋三元総理は感情豊かな人だった。怒るときには本当に怒った。

「失敬じゃないですか!」

「失礼じゃないですか!」

 野党の根拠なき攻撃や昭恵夫人への誹謗中傷に対して、気色ばんでこう反論する国会での姿は、多くの人々の記憶に残っているはずだ。「失敬だよね」「ひどいよね」。森友・加計学園問題の最中、幾度か交わした会話の中で、元総理はこうした言葉を繰り返した。

 けれど、それ以上は言わない。気の置けない仲間同士で誰かの批判をするとき、口を突いて出てきがちな下品な悪口雑言を、私は安倍氏から聞いたことがない。

 政治家同士の駆け引きの中で安倍氏は幾度もだまされた経験がある。安倍氏暗殺を受けて涙ながらに悲しみ、怒ってみせた政治家の中には、あからさまな裏切りを重ね、政界を泳ぎ続けている人もいる。その詳細を聞いたことがある。

 その時その政治家がどんな表情でどんな言葉を口にしたか。人払いをして二人きりになったとき、総理との距離感はどのくらいで、どんなヒソヒソ口調だったかなども聞いた。そんな時でも安倍氏の怒りの表現は極めて抑制的で、一言で言えばたしなみ深い人だった。

「ひどいじゃないか」

 しかし、いま、安倍氏は心から怒っていると思う。暗殺事件から十数日、犯人について少なからぬ情報が明らかになってきた。統一教会への積年の恨みの一方、元総理への恨みはないとSNSで犯人は書いている。ではなぜ、安倍氏を殺害したのか。なぜだ、なぜだ! 私の心はおさまらない。

 暗殺された元総理もきっと言っているはずだ。「ひどいじゃないか」と。けれど安倍氏はこんな場面においてさえ、怒りに駆られて我を忘れ、罵詈雑言を口走ることはないだろう。幼少時から政治家は怒りの表現をどうコントロールすべきなのか、どこで止めるべきなのかを祖父岸信介の巣鴨での体験や、首相となってからの日米安保改定騒動への対処の仕方などから学んでいたと思う。

 暗殺犯の男には想像もつかないであろうが、安倍元総理は国民全員の幸福を願っていた。世界の価値観が変わると共に世の中の制度や一人一人の生き方が多様化していく中で、わが国はどのような社会・国を作っていくべきかに心を砕いていた。多様な生き方を抱きとめる重要性を十分に承知しながら、大多数の人々の生き方や価値観を社会の基盤に据えて穏やかで安定した国を維持するのがよいと、安倍氏は考えていた。

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