「会うたびにドラマの話を」 安倍元総理の知られざる素顔を櫻井よしこが明かす

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安倍氏から薦められた本とは

 LGBTQ、シングルマザー、単独親権か共同親権か等々、家族の在り方に関する課題で私たちは度々意見交換をしたが、そんな折、本年5月16日の月曜日、安倍氏が言った。

「この本、読んでみて下さい。家族がどんなふうに作られてきたか、国家と家族の関係はどう形成されてきたか、書いてあります」

 安倍氏が示したのは古びた一冊の岩波文庫『家族・私有財産・国家の起源』で、エンゲルスの著作だった。

「私も薦められて古本を購入したんです。読み始めたばかりなんですがね。前の人がところどころ線を引いてくれていて、分かり易いんですよ」

 安倍氏は照れ隠しで笑った。戸原四郎氏が訳し、解説している。それによると同書はエンゲルス一人の作品ではなく、その前年に死去したマルクスの「遺言執行」の書だそうだ。人間の歴史を振りかえると、家族が最初に形成されて部族に発展したわけではないこと、部族が人間社会のそもそもの本源的、自然発生的な形だったこと、私有財産が徐々に形成される中で、母権的な氏族制度の枠が破られ、父権を軸とする家族が生まれたこと。大雑把にいえばこういう内容だと思う。

安倍氏がハマっていた海外ドラマ

 その後、同書について安倍氏と語り合う機会がなかったため、氏が同書をどう読んだか、わが国の家族の在り方の議論にどんな光を与えてくれるはずだったのかは、今となってはわからない。ひとつ言えるのは、安倍氏が読書家であり、よく学んでいたということだ。

 かといって元総理は「本の虫」ではない。とても朗らかに、映画やドラマの話をするのが好きだった。音楽よりずっと好きだった。ある日、突然言った。

「イギリス王室のはなし、ネットフリックスで見るといいですよ。『ザ・クラウン』です!」

 私が動画配信サイトのネットフリックスを見始めたのはこのときからだ。ソニー・ピクチャーズが100億円以上をかけ制作したイギリス王室の物語「ザ・クラウン」は世界中で大変な人気を博していた。シーズンはIからIVまで展開していた。

 しばらくしてお会いすると、突然、聞かれた。

「『ザ・クラウン』、見ました?」

「ええ。でもあそこまで内輪話を暴露してよいのか、他国の王室ながら心配です」

「そうなんですね。でも、イギリスってすごいですね。どんどん描いていく。どこまで見ました?」

 好奇心あふれる安倍氏は性急である。世界で幾千万もの人が見ている同作品は、何年もかけ制作し公開された長寿のヒット作だ。王室物語が実話に基づき再現され、女王陛下はじめ王室の方々の公務の様子の再現はほぼ完璧といわれている。

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