安倍元総理を失った岸田総理の胸中を読み解く 思い出す「角栄と中曽根」の関係

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 安倍晋三・元総理が凶弾に斃れた。日本では「殺害」「襲撃」「銃撃」と報じるメディアがほとんどだが、これは「暗殺」だろう。犯人に政治的背景があるかを重視しているのかもしれないが、日本政界で総理大臣というトップを務め、今も最大派閥の領袖(トップ)である政治家を射殺したのだから、「暗殺」が適当な言葉だ。欧米紙ではShinzo Abe Is Assassinated With a Handmade Gun(7月8日ニューヨークタイムズ)と報じている。assasinateは暗殺するという意味だ。【武田一顕 ジャーナリスト/映画監督】

 7月10日夜、参院選で大勝した岸田総理はやつれた表情で報道各社のインタビューに応じていた。国政選挙でしかも大勝すれば、政治家はアドレナリンが出て、疲れた表情は見せないものだ。安倍暗殺の衝撃が岸田の表情にも表れている。

 その岸田総理と安倍元総理だが、財政や外交安全保障などの課題で異なった考え方を持っていたのは周知の事実だ。特に中国に対する姿勢は対照的で、安倍は中国と「本音で対立、顔で融和」という姿勢、対する岸田から表立った中国批判は聞こえてこないし、中国に対して気を遣っている姿勢が明らかだ。

 総理就任後も防衛費増額や核共有など物議をかもす発言を繰り返す安倍に対して、岸田は、常に気圧されてきた。安倍の死去で思い切った政権運営ができるようになるのだろうか。筆者はむしろ、パワーバランスが崩れ、岸田は予測可能性の低下に苦しむことになると考えている。

鍵を握るのは清和会

 鍵を握るのは、最大派閥・安倍派(清和会)の動向だ。

 清和会は安倍氏の祖父・岸信介が結成した派閥(当時の名称は十日会)を源流とし、21世紀に入ってからは事実上、森喜朗・元総理が牽引。2012年に安倍が総理に復辟 した後は細田博之・衆議院議長が会長となり、細田派と称されたこともあるが、実際のトップは安倍というのは誰もが知るところだった。安倍は、総理を辞した後の2021年に会長に就任。これで名実ともに安倍派となった。90人超の国会議員を擁し、与野党含めた衆参の国会議員合計のうち、約8人に一人が安倍派という計算になる。国会や自民党における決定は原則として過半数で決まるので、この最大派閥の影響力がいかに大きいかがわかるだろう。なお、岸田率いる宏池会の所属議員は44人。清和会の半分にも満たない。

 安倍の死去で会長不在となった清和会は今後、幹部7人による集団指導体制をとるという。派閥というのは派の領袖 を総理に押し上げるために存在する。そうでなければ派のトップが政治的実力者で金集めが巧みな場合にかぎって機能する。

 集団指導とはあくまでも過渡的な措置だ。

 突然、派のトップが暗殺され弥縫策 として集団指導体制を敷いても、中長期的には必ず破綻する。そもそも清和会は、かつて森が「わが派は分裂と脱藩の歴史だ」と認めたように、分裂癖を持った派閥だ。清和会内部からは既に、分裂もありうると心配する声も上がっている。現に「清和殿の7人」をめぐり、西村康捻・前経済再生担当大臣が派閥トップに意欲を示しているとか、世耕弘成・参議院幹事長が衆議院に鞍替えして総理の座を狙おうとしているなど、流言飛語が飛び交っている実情がある。

 では、嵐の中を漂う船となった清和会が、どうして鍵を握るのか。それは政治史を紐解くと明らかになる。

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