歯磨きから家事まで家庭内の「習慣」を進化させる――掬川正純(ライオン代表取締役 社長執行役員 最高経営責任者)【佐藤優の頂上対決】

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社会の雰囲気をよくする

佐藤 「スマートハウスワーク」は、どういう試みなのでしょうか。

掬川 言葉通り、家事をスマートにすることで、二つの視点があります。一つは「家事負担を軽減する」、そしてもう一つは「家事を通じて家族内の人間関係をスマートにする」ということです。つまり家事を楽にするだけでなく、例えば男性に家事をやってもらえるようにする。そうした方向へ進化させたいのです。

佐藤 確かにどの家庭でも家事分担を巡って諍(いさか)いが起きますね。

掬川 他の習慣作りもそうですが、「男性もやるべきだ」と「べき論」を言っても、なかなか受け入れられません。それよりは、商品を通じて「簡単にできるし、きれいに仕上がると掃除そのものが楽しくなりますよ」と提案したほうがいい。例えば、「ルックプラス バスタブクレンジング」というお風呂の洗剤があります。これは浴槽に吹きかけて流すだけの非常に簡便なものです。この商品には他と違って男性からの反響が次々に寄せられましたから、ワンオペ家事の解消に少なからず役立っているという実感があります。

佐藤 風呂掃除は、男性が家事に参加する入口です。

掬川 女性からすると、男性に是非やってもらいたいのは食器洗いです。でもいざやってもらうと、洗い上がりに満足できない。だから家事初心者の男性が洗っても簡単に汚れが落ちますよという商品を作って男性に参加してもらう。

佐藤 男性でも、下宿経験があるとずいぶん違います。

掬川 そうですね。ただ、家事をやったことのない男性にも困りますが、自分でやってきた男性に一家言あると、それが夫婦間の軋轢(あつれき)になる。そこがなかなか難しい(笑)。

佐藤 独自のやり方を編み出す人もいますからね。

掬川 最後の「ウェルビーイング」も女性に関わる話です。女性の身体的不調を和らげ、家事の負担を軽減することで、女性のためだけではなく社会全体の雰囲気をよくすることに取り組んでいきます。私どもには生理痛や頭痛を緩和する「バファリン」や胃腸薬の「スクラート」があります。これらを入口に、身体的な不調を軽減しながら、ライフスタイルに合わせて、どんな生活習慣を持てば頭痛や胃痛が軽減されるのか、そうした予防的な情報を届けていきたいと思っています。

佐藤 それぞれこの時代に合った切り口で、興味深いものです。一方で、こうした家庭内で使われる商品は、これから人口減少の影響を受けるのではないかと思います。そこはどうお考えですか。

掬川 残念ながら日本では少子高齢化がどんどん進行し、人口減の時代に入りました。ただ弊社が仕事をさせていただいている分野では、人口減でもマーケットの拡大が続いています。

佐藤 健康にお金をかけるようになった。

掬川 はい。ヘルスケアに対する意識の高まりが、お金の使い方を大きく変えています。ですから弊社は、次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーを目指しています。

佐藤 海外にも積極的に進出されようとしていますね。

掬川 2030年には売り上げの半分、およそ3千億円を海外から上げていこうという目標があります。そこで私どもの強みは、やはり「日本企業であること」だと思います。

佐藤 どういうことですか。

掬川 すでに韓国や台湾は人口減少局面に入り、中国もそれに続きます。東南アジアはまだ若いですが、やがては人口減少に転じます。その時、最先端の高齢化・人口減少社会で研ぎ澄まされたビジネスは、各国で活用できる。いま、そのモデルをきちんと作り上げることが、私どもの勝ち筋だと考えています。

掬川正純(きくかわまさずみ) ライオン代表取締役 社長執行役員 最高経営責任者
1959年神奈川県生まれ。東京大学農学部林業学科卒。84年ライオン入社。界面活性剤や無機材料の研究を経て、2006年研究開発本部ファブリックケア研究所所長。10年執行役員ハウスホールド事業本部長、12年取締役、16年常務、18年代表取締役 専務執行役員、19年代表取締役 社長執行役員 最高執行責任者。22年3月より現職。

週刊新潮 2022年7月14日号掲載

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