浮気相手との「ウェディング写真」がバレて自殺未遂 43歳男性が情けなくなった“自分の性格”とは

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 ケアを要する家族の世話を18歳未満の子供が行う「ヤングケアラー」の問題が、いま注目されている。日本総研の令和2年度調査では「世話をしている家族がいる」と回答したのは、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%にのぼった。今回ご紹介する男性も、まさにヤングケアラーとして少年時代を過ごした。

 その行いのすべてを生い立ちに帰することはできないにせよ、育った環境が人格形成におよぼす影響は少なくないと言われる。20年以上にわたって男女問題を取材し、『不倫の恋で苦しむ男たち』(新潮文庫)などの著書があるライターの亀山早苗氏が、当事者に話を伺い、その胸中を明らかにする。

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 嫌なことを嫌と言えない人がいる。相手の気持ちを考えると、どうしても「NO」が口から出てこない。だが、それによって、事はどんどん思いがけない方向へ行き、最終的には自ら追いつめられてしまう。今、しみじみとそれを噛みしめている男性がいる。

 秋山勇喜さん(43歳・仮名=以下同)は、3年前、自殺を企てた。

「死にたかったわけじゃない。消えたかったんです。消えたくてたまらなくて、医者から処方された薬をためて、これだけあれば消えることができると思って飲んだ」

 だが消えることはできなかった。大量に飲みすぎて吐き、助かったのだ。だがそれが原因で妻は家を出て行った。長年つきあってきたものの、彼の「とことん弱い性格」に愛想を尽かしたのだろうと考えているそうだ。

 勇喜さんは北陸地方の小さな町に産まれた。中学教師の父と、高校教師の母との間の次男だ。3歳年上の兄がいる。ところが何があったのか、彼が小学校に上がるころ、一家は上京。父も母も私立中学の教師となった。さらに数年後、母は塾の講師に転職した。

「のちのち父方の祖母に聞いたところによると、父は人間関係を築くのが下手で、周りの同僚とうまくいかなかったみたいです。母がイライラして、いっそ東京に行こうと誘ったのかもしれません。母はせっかちで独断的でしたから。母は僕たち兄弟の先行きを考えて上京したと言っていましたが」

 彼が小学校4年生のとき、兄が有名私立中学に合格した。勉強も運動もでき、クラスの人気者でもあったという。たいして勉強もしていないのに、あっさり受かってしまったのだ。

「次は勇喜の番だからねと母に言われました。だけどちょうどそのころ、父方の祖母が脳梗塞で倒れて、一命はとりとめたものの左半身に麻痺が残ってしまった。家の中はなんとか歩けるものの、完全に目を離しておけるわけではない。そんな祖母を父が呼び寄せて同居することになったんです」

ヤングケアラー…祖母と母に振り回されて

 毎日のように父母が口げんかしているのを彼は目撃している。誰がめんどうみるのよと母は大声で叫んでいた。経済的な問題もあったのかもしれない。

「そのころいちばん時間があったのが僕だった。今でいうヤングケアラーですよね。当時はそんなふうに思っていなかったけど。しかも運の悪いことに、祖母が倒れる直前に、母が学校をやめて塾講師になった。塾講師は夕方からが忙しいんです。結局、僕がめんどうをみるしかなかった」

 母と祖母は折り合いが悪かったようだ。ふたりが話している場面を見た記憶が、彼にはない。一方で、母は兄と同じ私立中学に行くことを勇喜さんに強要した。だが、帰宅すると祖母の相手をしなければならなかった。体の自由が利かないことで、ときおりわがままになる祖母に彼は手を焼いた。ゆっくり歩けば自分で行けるのに、「トイレに行きたい」「風呂はひとりで入れない」と勇喜さんを使う。母は夕飯の下準備もしないことがあり、そんなときは勇喜さんが食事を作って祖母に食べさせた。

「まずいって文句を言われて。でも機嫌がいいと『勇喜だけだよ、私の味方は』とお小遣いをくれたりもする。祖母と母の機嫌に振り回されていました。僕は当時10歳ですよ、命令されれば嫌とは言えないし、大人の意図を読むこともできない。家族に翻弄されたと今は思っています」

 塾にも行けなかったので、当然のように中学受験には失敗した。母は「あんたはやっぱりダメね」と言い放った。あの頃のことを思い出すと今でも涙が出そうになると彼は言った。

 母の冷たい声は今もよみがえることがある。

 地元の公立中学に通い始めたが成績は今ひとつ。兄は優秀な成績でエスカレーター式の高校へ上がった。

「親戚の集まりなどがあっても、母は祖母の介護要員として僕を置いていった。父は陰が薄かったですね、自分の母親なのに。あのころは家族の力関係として、いちばん強いのが母、次が兄、最後が父で、僕は論外。そんな感じですね」

 中学3年生の冬、祖母があっけなく逝った。2度目の脳梗塞を起こしたのだ。母は、「あんたがいたのにどうして見てなかったの」と強い口調で彼を責めた。だが、彼が学校から帰ってきたら祖母が動かなくなっていたのだ。あわてて救急車を呼んだ彼の心細さを、母はまったく気にかけてもくれなかった。

「突然自分に舞い降りた自由に戸惑いました。祖母が動かなくなっていたあの状況も、繰り返し夢に見た。そんなことで受験勉強なんて身が入らない。滑り止めの私立にやっと受かって、絶望的な高校生活が始まりました」

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