イチゴのつぶつぶは“種”じゃない 驚きの「意外な正体」とは

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 好きな果物ランキングで常に上位にランクインする人気の果物「イチゴ」。皮をむかずに手軽に食べられることもあり、手土産や贈り物としても重宝します。

 そんなイチゴの特徴といえば、表面にある「つぶつぶ」。このつぶつぶの正体をご存知でしょうか。

 つぶつぶは種子のようにも見えますが、考えてみれば、種子が果実の表面にあるというのは少し奇妙な感じがしますよね。

 植物学や農学といった科学的見地から書かれた食に関するベストセラーを数々世に送り出している稲垣栄洋さん(静岡大教授)の著書『一晩置いたカレーはなぜおいしいのか』では、料理のおいしさの秘密だけでなく、「メロンの網目はどうやってできるのか」など食材の謎なども解き明かしています。

 老若男女に愛されるイチゴの「つぶつぶの正体」を同書からひもといてみましょう。

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イチゴのつぶつぶの正体は?

 イチゴは、花の付け根の花托(かたく)部分が肥大してできた偽果(ぎか)です。それでは、子房(しぼう)が肥大した本当の実はどこにあるのでしょうか。

 イチゴのつぶつぶは、花托が肥大した偽果の表面についています。じつは、このつぶつぶこそが、イチゴの本当の果実なのです。

 イチゴのつぶつぶの一つ一つをよく見ると、粒の先端に棒状のものがついています。これが雌しべの跡です。そして、この小さな小さな果実に、種子がたった一つ入っているのです。

 イチゴを縦に切ってみると、白い筋が見えます。この筋をよく観察してみると、一本一本が、一つ一つの粒につながっています。この白い筋は、イチゴの本当の果実に水分や栄養分を送るためのものです。

 一つ一つの粒が果実だといっても、これは痩果(そうか)といって、種子をくるんでいるだけの果実です。そのため、この痩果はそのまま種子としてまくこともできます。

 イチゴのつぶつぶを果肉からピンセットで取ってまいてみると、ちゃんと芽が出てきますよ。

「イチゴ」は俳句の世界では“夏の季語”

 イチゴには、冬から春のフルーツというイメージがあります。クリスマスケーキにはイチゴのショートケーキが定番ですし、春になると季節のスイーツとして、イチゴのパフェが登場します。

 しかし、実際にはイチゴの旬は初夏です。俳句の世界でも、イチゴは夏の季語になっています。このようなズレが生じてしまった理由は、クリスマスの需要に合わせたハウス栽培が一般化するようになり、本来、夏の野菜だったイチゴが冬にも出荷されるようになったからです。

 ただ、ビニールハウスで育てるとはいっても、夏が旬のイチゴを冬に実らせるのは簡単なことではありません。ただ加温すればよいという単純なものではないのです。イチゴは、季節を感じることで花を咲かせ、実をならせます。すなわち、冬の低い温度を感じ取って花の芽を準備し、春になって日が長くなってくると花を咲かせるというリズムを持っているのです。

 クリスマスに出荷するためには、それを半年ずらさなければなりません。暑い夏なのに低い温度を感じさせて、秋の夜長といわれる時期に、昼間の時間が長くなったと感じさせなければならないのです。

 そのためビニールハウスでイチゴを栽培する場合、夏の間は標高の高い涼しい場所で苗を育てたり、夜間は苗を冷蔵庫に入れたりして、苗に冬が来たと勘違いさせます。そして、寒い温度を感じさせることで花の芽がつくられた状態の苗を、植えつけます。さらに、秋~冬にかけては、夜も明かりをつけて栽培します。こうして、日が長くなったとイチゴに錯覚させて、開花させるのです。

 しかし最近では、新しい技術の進展や、品種改良により、このような栽培方法を行わない例も増えてきています。

 こうして、栽培方法や品種改良により「季節をずらす」ことによって、冬から春の時期に、おいしいイチゴのショートケーキが、私たちの目の前に並ぶようになったのです。

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 身近なイチゴ一つとっても実は意外と知らないことだらけ。いつも口にしている「食」についてよく知ることで、食事が楽しくなるといいですね。

『一晩置いたカレーはなぜおいしいのか―食材と料理のサイエンス―』より一部を抜粋して構成。

デイリー新潮編集部

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