「スポーツベッティング」は日本に根付くか 海外でのギャンブル事情に通じた専門家が抱く違和感(競馬評論家 須田鷹雄)

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欲が走りすぎ

 以上おおざっぱに世界の スポーツベッティングについてご紹介したが、日本でもスポーツに賭けられるとなれば、スポーツも賭けも好きな身としてはありがたい。贔屓のチームに賭ける前向きな賭け方をするもよし、敢えて敵チームに賭けて「勝利か現金のどちらかを得る」といった戦略も立てられる。

 ただ、仮にスポーツベッティングが可能になってもそこまでの巨大市場にはならないというのが筆者の見立てだ。いろいろな動きがあるのは承知しているが、ちょっと官民ともに欲が先走りすぎている。

 そもそも、控除率はどの程度にするのか、日本でブックメーカー式の賭けを認めるのかというところから現状の「議論」では示されていない。

 スポーツベッティングはおおざっぱに言うと当たって2倍の賭けが基軸になるので、日本の公営競技のように約25%の控除率を取ったら成立しない。これを仮に5%にする場合、公営競技の5倍の売り上げがあって同レベルの粗利ということになる。10%でも2.5倍だ。

 パリミュチュアル方式の賭けにするのかブックメーカー方式なのかというのはさらに重要な問題だ。パリミュチュアル方式というのはファンの投じた票数でオッズ(倍率)が決まるもの。スポーツベッティングで一般的なブックメーカー方式は売り手が倍率を決めて自身が損をするリスクも取る。後者による賭けはこれまで日本では認められていない。ここはどうなるのか。

小さい種火をみんなで吹いて

 先行事例として、ギャンブルのとしてのスポーツくじ(サッカーくじ)がほぼ失敗に終わったことが参考になるのではと思う。

 スポーツくじの令和3年度売り上げは約1131億円だが、そのうち約91.7%をBIGなどの「非予想系」が占めており、自分で考えて買い目を決める「予想系」の売り上げは約94億円しかない。つまり宝くじの乱数発生装置としてサッカーが利用されているだけで、
スポーツベッティング的な利用はほとんどない。これはスタート時に「ギャンブルは悪」という反対論をかわすために宝くじなみの控除率(約50%)を取り、ハイリスクローリターンな魅力のない商品にしてしまったためだ。

 日本でスポーツベッティングを根付かせようとするなら、きちんとギャンブルとして魅力的なデザインにすることと、最初は小さな売り上げでもそこから丁寧に育てていくことが大事だ。反対論を封じるために賭けてもつまらない商品を作ってしまったり、最初に大風呂敷を広げてすぐに立ち行かなくなってしまうのでは話にならない。

 現状スポーツベッティングは独占を狙う民間企業と新たな金脈を欲する所轄官庁という構図になっているように思うが、将来的なファンの効用と売り上げを原資とするスポーツへの助成を最大化するためには、もっとギャンブルに対してまっすぐで、多くの社が競いつつ最終的に総売り上げを最大化する仕組みでないといけないと思う。役所側は、ギャンブラーの意欲にも配慮したデザインにできるかどうか。民間側は、どこかに独占させるのではなく地方競馬や競輪、オートレースのようにIT各社がそれぞれ拡販する形が良いように思う。そのほうが既存公営競技からの横滑り需要も見込める。

 絵に描いた大きい餅を独占しようとするよりも、小さい種火をみんなで吹いて大きくしていくイメージのほうが、日本におけるスポーツベッティングには合うように思う。

須田鷹雄(すだ・たかお)
1970年東京生まれ。競馬評論家、ギャンブル評論家。中学生時代にミスターシービーをきっかけとして競馬に興味を持ち、1990年・大学在学中に「競馬ダントツ読本」(宝島社)でライターとしてデビュー。以来、競馬やギャンブルに関する著述を各種媒体で行うほか、テレビ・ラジオ・イベントの構成・出演も手掛ける。競馬予想に期待値という概念を持ち込み回収率こそが大切という考え方を早くより提唱したほか、ペーバーオーナーゲーム(POG)の専門書をはじめて執筆・プロデュースし、ブームの先駆けとなった。主な著書に「いい日、旅打ち」(中公新書ラクレ)、「POGの達人」(光文社)。出演番組は「KEIBAコンシェルジュ」(グリーンチャンネル)、「BS FUJI競馬中継」(BS FUJI)など。

デイリー新潮編集部

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