伝送路が変わってもラジオの文化を発信し続ける――檜原麻希(ニッポン放送代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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これからのラジオ

佐藤 さて、これからニッポン放送をどういう方向へ導いていかれますか。

檜原 私どもは民放局で、広告をいただいて放送するというビジネスモデルです。ただ、インターネットの出現で広告のありようが激変してしまった。今年創立68年のニッポン放送が32年後に100周年を迎えるには、そうした環境にアジャスト(適応)した新しいビジネスモデルが必要だと思います。

佐藤 radikoを始め、AM局の放送をFMでも聴けるようになるなど、ラジオ自体は多様化しています。

檜原 もちろん音声コンテンツは広げていきますし、24時間放送の中で、生活のシーンに合わせて情報を変えるようにもしていきます。もっともこれまでのように、午前は主婦、昼はドライバー、夜は若年層といった分け方ではもう合わなくなっている気がします。また、リアルタイムで聴けない人には、radikoのタイムフリーやポッドキャスト等で接触していきます。それぞれの局面でビジネスシーンを作り出さないといけない。ただ、ありがたいことに、いま音声コンテンツは世界で見直されています。

佐藤 電車通勤が多い日本では、車内でゲームをやったり、YouTubeを見たりしますが、アメリカのような車社会だと、ラジオとオーディオブックですよね。それが大きなマーケットになっている。

檜原 その通りです。ラジオは昔から、音を聴きながら違うものを見たり読んだりできる「ながらメディア」と言われてきましたが、コンテンツがスマホに入ることによって、さらに可能性が広がりました。アメリカではポッドキャストの音声広告の市場が激増しています。欧米と同じようにはいきませんが、その市場は開拓していかなければならないと思っています。

佐藤 音声広告の領域も増やしていく。

檜原 最近は「オトナル」という音声広告を扱う代理店さんと組んで、「オールナイトニッポン」などの一部の番組をポッドキャスト用に再編集して配信する際、広告枠を作って販売しています。

佐藤 さまざまな会社に出資されているとも聞きました。

檜原 テレビにもよく出ている前田裕二氏のライブ動画配信会社「SHOWROOM」、線虫を使ってがんの早期発見を行うベンチャー「HIROTSUバイオサイエンス」に出資していたり、先ほど話に出ました「オトナル」にも出資しています。

佐藤 どんな基準で決めているのですか。

檜原 基本的にはリスナーのためになり、ニッポン放送という会社と組んでシナジー(相乗)効果が生まれるかという観点でみんなと検討しています。そうした投資の他に、映画やイベントなどにも積極的に関わっていきます。

佐藤 広告以外でもマネタイズ(収益化)していく。

檜原 簡単ではないですけどね。

佐藤 今後は、ITの会社になるかもしれない、とお話しされたことがありました。

檜原 技術が革新されていけば、電波と通信の差がなくなるかもしれないし、違いを残しつつ両者の関係が最適化されるかもしれない。ラジオというハードの優位性はすごく大きいと思いますが、誰もがスマホを持っていて、そこから番組を聴くことになれば、それはITの会社と呼べるかもしれないということですね。

佐藤 ラジオはもともとハガキでリクエストしたり、相談を書き送ったりするインタラクティブ(双方向)なメディアです。だから、実はデジタルとは相性がいい。

檜原 ハガキがメールやツイッターになって、すぐにやりとりが可能になったので、さらにインタラクティブなメディアになったと思います。そうしたものも含めて、「ラジオ」というフォーマットで情報を届けることは一つの文化になっている。これから伝送路はどう変わるかわかりませんが、「ラジオ」の文化をきちんと継承していきたいと思っています。

檜原麻希(ひわらまき) ニッポン放送代表取締役社長
1985年慶應義塾大学文学部卒。同年に(株)ニッポン放送入社。2009年デジタルメディア局長、2011年編成局長、15年取締役、18年常務取締役、19年代表取締役社長。子供時代はイギリスやフランスで過ごした帰国子女。

週刊新潮 2022年7月7日号掲載

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