上京した若者が「東京の魚はおいしくない」と嘆く理由 ベテランバイヤーが語る“スーパーの事情”

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スーパーの品揃えに原因が?

 最近は珍しい魚を扱う都内の鮮魚専門店が話題に上るものの、そうあちこちにあるわけではない。家の近くや、通学や通勤の帰り道沿いになければ、普段の買い物とは言い難い。東京の若者ならコンビニやスーパーでの買い物が主流となろう。コンビニで魚は調達しにくいので、「魚がおいしくない」と思わせる原因はスーパーにあるのではないか。

 東京の大手スーパーでは、冷凍食品を中心に簡単・便利な商品がもてはやされる。特に夏場には、パック詰めされた日持ちする加工品が目立つほか、以前は総菜コーナーに並んでいることが多かった「握り寿司」の盛り合わせも、鮮魚コーナーで幅を利かせている。その横には、寿司と同じような組み合わせのカラフルな「刺し身盛り合わせ」が陳列されている。

 スーパーではなく、鮮魚専門店では産地直送と見られる発泡スチロール入りの魚が無造作に置かれ、魚市場さながら「旬の魚」の特売を演出する光景も見られるが、大手スーパーの店頭では丸ごと一匹の魚、いわゆる“丸魚”を売る例は少ない。

「売れないから」敬遠される丸魚

 大手スーパーで40年にわたって魚の仕入れを担当してきたという元水産バイヤーによれば、「丸の魚はアジ、サバ、イワシ、サンマ、イカの基本5種類。ただし、最近はそのまま並べても、調理を嫌って売れないから、頭や内臓、時には骨まで取って店頭に並べるため、どうしても売価が上がってしまう。それでもロスが出るから、次第に丸の魚は棚から外されてしまうことが多い」のだという。しかも基本5種のうち、サンマやイカは不漁続きで冷凍品も在庫が少ないため、仕入れにくい状況だ。

 海の幸に恵まれた地域はもちろん、車移動が多い地方では、道の駅などで漁港から直送された丸魚を買うことも珍しくない。内臓を処理していない丸魚は傷みやすいので、販売できるのは新鮮だからこそ。そのまま販売すれば、余計なコストは掛からず安く提供できる。東京に比べ、比較的調理法を知っている人も多いから、丸魚が売れるのだ。

 ところが、東京では新鮮な魚でも「さばき方を知らない人が多く、知っていても手間やごみを嫌うため丸魚は売れない」と元バイヤー。従って地方出身者から見れば、東京は丸魚があってもごくわずか。地元で味わった魚は、あっても極少数で、下処理されていれば割高となり、地元と同じ買い物は期待できないのが実情だ。刺し身にしても、安定的な仕入れを行うために冷凍・養殖魚が主流なので、「東京で買う魚はおいしくない」といった印象になるのではないか。

 スーパーの台頭によって2000年以降、街の魚屋さんが各地で姿を消した。同時に、若者を中心とした「魚離れ」が指摘され続け、10年ほど前から日本人の魚消費は肉に抜かれ続けている。その原因がすべて大手スーパーにあるとは言えないが、上京した若者の愚痴に耳を傾け、もう少し「(丸の)安くてうまい魚」を提供したらどうか。若者たちが刺し身にさばくのが難しければ、塩焼きでも十分おいしく食べられるだろう。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。

デイリー新潮編集部

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