中国で「特殊詐欺の架け子バイト」で逮捕された元日本人受刑者 地獄の刑務所生活を耐え抜き”奇跡の帰国”を果たすまで

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テレビで学んだ中国語

 突如突きつけられた5年という歳月。ふと気づくと、あと1700日、あと1699日とカウントし始める自分がいた。絶望に陥る一方で、生き抜かねばならないと鼓舞する自分もいた。

 Aさんには子供が2人いた。妻とは獄中で離婚することになってしまったが、子供のことは片時も忘れることはなかった。会いたい。毎日のように子供たちの顔を思い浮かべて過ごしていた。

 Aさんは、劣悪な獄中生活を生き抜くために言語の習得に挑んだ。教材に使ったのはテレビだ。

「朝10時から2時間、午後も2時から2時間くらい観られます。全部字幕がついているので、一つひとつの単語をメモしてしながら覚えていきました。部屋に置いてある中国語の本も片っ端から読破。漢字なので、繰り返し読むうちに文法や意味はわかるようになるのです。とにかく暇さえあれば、中国語を喋るように心がけていました。仲良くなった囚人から、基礎的な発音なども教わりました。中卒で、ろくに勉強したことがない人生でしたが、思えば人生で初めて勉学に打ち込んだ時間でした」

罪を認める書類にサインした

 その甲斐あり、徐々に語学力は上がり、囚人たちとのコミュニケーションも円滑に取れるようになった。

「男だらけの環境ですから、卑猥な話で盛り上がることが多い。中国人たちは性に関してウブな人が多いんです。だから、『日本ではこうだよ』と教えてあげると、『えー、ウソだろ』ってみんな驚いていました」

 雑談ばかりでなく、今後の立ち振る舞いについてのアドバイスも受けたという。

「みなが『有罪が覆ることは絶対にないから、早く罪を認めたほうがいい』と言うのです。実際に、否認したまま裁判にかけられた人のほとんどが、刑期が積み増しされていました。そんな現実を見て、争う気力がなくなりました」

 収監から1年後に、ようやく起訴されて裁判にかけられることに。裁判が始まる直前、Aさんは検察官から中国の司法制度にある「認罪認罰制度」を使うよう諭された。事前に罪を認める書類にサインすれば、刑期が軽くなる約定みたいなものだという。

「結局、私が詐欺をしたという証拠は最後までなかったのですが、検察官は違うグループが詐欺をした際の証拠を持ってきて、サインするようにと言ってきました。滅茶苦茶だと思いましたが、もはや争う気力は残っておらず、黙ってサインをしました」

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