香港、返還25年で警察監視社会が完成 「憂鬱の島」は今後こうなる

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 この7月1日、香港はイギリスからの返還25周年を迎える。香港島のワンチャイで行われる記念式典に出席するため、習近平が香港を訪問するかどうかは5日前になっても明らかになっていない。オンライン参加の可能性が残っているからだ。習近平はコロナ蔓延以来、外遊を一切控えており、出境=大陸中国から外に出るとすれば、これが初めてとなる。【武田一顕 ジャーナリスト/映画監督】

 香港は、中国全土を蚕食しようとする狡猾なイギリスの支配の下、自由な経済活動とイギリス型法治を修得してアジアでの大成功者となった。しかし、今では一国二制度で50年かけて緩やかに中国に帰るルールを避けて通れず、政治的にがんじがらめにされてしまった。

 言論弾圧、監視強化。

 ここは憂鬱の島だと、ある香港人は呟く。

 アジア金融都市の地位は揺るがないと語る人もいる。

 一国二制度の残り25年、更にはその先、香港はどうなるのだろうか。

 それを象徴する大きな人事が、まさに今行われようとしている。

「監視社会化」を示す人事

 7月1日、香港政府トップの行政長官に李家超(ジョン・リー)が就任する。彼は香港で、国家安全維持法の成立を推し進めた張本人で、反対デモや暴動を抑え込んだ香港の元警察官僚だ。97年の返還以来、香港のトップは財界有力者か、現任の林鄭月蛾(キャリー・ラム)のようなキャリア文官が5代にわたり担ってきたことを考えると、どれだけ異例かが分かる。

 また、ナンバーツーの政務官になる陳国基(エリック・チャン)は、入出境の管理当局で長年働いてきた官僚。トップもナンバーツーも治安畑出身者が占めることになる。返還25年を機に、イギリス型の自由都市から中国共産党型のガチガチの監視社会に突入することが内外に示されるのだ。

 7月1日当日に民主化を求めるデモが起きることもないだろう。国家安全維持法制定や、デモの制圧によって香港トップの座を射止めた李家超が、大ボス・習近平の前で民主化運動など許すはずがない。香港紙によると、香港政府は7月1日前後に民主活動家らをホテルに軟禁状態にすることも考えているという。

 しかし、日本のメディアでは誤解を与える報道も多いと、香港や北京で生活していた筆者は感じる。日本の多くの新聞やテレビでは、香港は親中派と民主派に分かれ、民主派は命懸けで中国共産党支配に抗っているように伝えている。良い例が「民主の女神」と称される周庭(アグネス・チョウ)だ。若い女性で日本語も英語も堪能、日本文化好きを公言する彼女が収監を覚悟で民主化運動をする姿に、メディアは飛びついた。しかし、香港を正しく理解している人ならば、彼女を民主派と呼ぶのは誤りだと知っている。周庭が属するのは自決派と呼ばれる別の政治勢力だ。香港のことは香港人自身が何でも決めるべきだという思想に基づいているのだが、しばしば暴徒化・過激化する学生運動組織と現地の人々も受け止めており、決して普通の市民ではない。現に、周庭は香港では「民主の女神」と呼ばれたことはない。あくまで「学民の女神」であり、学民とは周が所属する学生運動組織の名称だ。

 このように書くと、筆者のことを中国共産党の回し者だとする人も少なからず出てくるだろう。しかし、2014年の雨傘運動や2020年国安法反対の動きを取材する中、最も先鋭化・暴徒化したのは、他ならぬこの自決派勢力であることを目の当たりにした。親中派の人々と衝突して流血騒ぎを起こしただけでなく、親中派の市民が経営する商店の打ちこわしまで行っていた彼らを「中共より恐ろしい」と表現する香港市民は多かった。市民が眉をひそめるような彼らの非合法活動が、結果的に国家安全維持法成立への後押しとなったのは非常に皮肉なことだ。また、日本をはじめとする海外メディアが、過激派としての自決派と穏健な民主派を一緒くたにして報じ、美化してしまったことで、中国共産党は香港自治が脅かされると受け止めた。同じようなことがあってはならない。だからこそ、この7月1日は何としても民主活動家たちを静かにさせる必要がある。警察監視社会の完成に向けて出鼻をくじかれるわけにはいかないのだ。

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