尹錫悦はなぜ「キシダ・フミオ」を舐めるのか 「宏池会なら騙せる」と小躍りする中韓

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中国も「キシダはチャンス」

――でも結局、産経新聞にすっぱ抜かれてしまった。

鈴置:韓国とすれば、それはそれでいいのです。岸田政権は自民党内から「対韓弱腰外交」との批判を受け、日韓外相会談や首脳会談を先送りせざるを得なくなった。韓国は米国に「我が国は関係改善に積極的なのに、日本が首脳会談を避ける」と言いつけられるようになったのです。

――しかし、その原因は韓国が作った……。

鈴置:もし、米国との関係が良好な安倍、菅政権だったら、米国はそうした言い分を聞いた可能性が高い。しかし、現在の日本の首相は「バイデンに嫌われたキシダ」。米国にそう言い付ける力もないと韓国に見切られたのです。

――「キシダはチャンス」ですか。

鈴置:日本にとっては「岸田リスク」ですが。外交の基本は相手の弱みにつけ込むこと。「キシダ・チャンス」を韓国が使わなかったら、その方がおかしい。

 チャンスを生かそうとするのは韓国だけではありません。2021年9月の自民党の総裁選挙に先立ち、日経新聞が海外の日本専門家にコメントを求めました。

 中国社会科学院の楊伯江・日本研究所所長は以下のように語りました。「自民党総裁選を語る 有識者編」(9月14日)から引用します。

・軽武装・経済重視の宏池会会長を務める岸田文雄氏は元外相として経験も豊富だ。注目している。

 潜在敵国であることが日増しに明白になる中国から「キシダ待望論」が語られたのです。

「宏池会が大好き」の中韓

――「宏池会だから」という理由もすごいですね。

鈴置:宏池会は「リベラル」がウリですから騙しやすい、と中国は見ているのです。実は、先に引用した朝鮮日報の「<太平路>次期大統領は岸田日本総理と『大和解』を推進せよ」も「宏池会押し」の記事なのです。

・日本政治の派閥は伝統を重視する。彼が率いる岸田派(46人)が韓国との友好関係を重視する宏池会の流れを引いていることも注目する必要がある。
・宏池会は韓日国交正常化の布石を打った池田勇人・大平正芳両総理の命脈を継いでいる。1992年、日本軍慰安婦に対し初めて国会で謝罪した宮沢喜一総理も宏池会所属だった。
・長い間、韓国の議員たちと平和を論じ、総理への野望をはぐくんできた林芳正議員もやはり、ここに属する。

シャングリラで「宏池会」

――宏池会はアジアで評判がいいのですね。

鈴置:ええ、日本を潜在敵国と見なす国では。不思議なことに6月10日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ)での演説で、岸田首相は「宏池会」を強調したのです。

・私の故郷、広島の先輩であり、私の属する政治集団「宏池会」の先輩リーダーである、宮澤喜一元総理は、「冷戦後の時代」について、日本の国会での演説で「新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まりと認識したい」と述べました。

 自民党の派閥の話をされても、外国人は面食らうだけでしょう。それも、海外からは「与し易い」と見なされている「宏池会」を持ち出したのですから……。

――「宏池会のエース」は今後も嵌められる?

鈴置:自民党の対韓原則派――韓国を甘やかすなと主張する議員らは警戒を解いていません。ある議員は「参議院選挙に気をとられ、我々が目を離している隙に岸田政権はまた、ころりと騙される可能性がある」と心配しています。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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