勝ち組の恋愛ドラマになってしまった「持続可能な恋ですか?」 婚活中の人の共感を得られない難点が

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 婚活がテーマなのに、主要人物たちが恋愛弱者でもなければ、焦ってもいない。なんだかモヤッとするものの、脇役で登場したシソンヌじろうひとりだけが婚活のリアルを体現していたのが「持続可能な恋ですか?」。

 引き続き、観ております。じろうも第7話で結婚できたようで、心からお祝い申し上げます。ここらで少し振り返っておこうかなと。

 主人公を演じるのは上野樹里。無脂肪にも程があるくらいおなかがペッタンコなヨガインストラクターだ。カレーやチャーハンをもりもり食う割に超絶細身。毎日のように家の中でスマホを探す愚行を繰り返したり、トレーナーを裏表逆に着て出かけてしまうズボラ演出も最初だけだったしなぁ。

 そんな上野が起業セミナーで出会ったのは、いつ見ても寝起きの子供のような顔をしている田中圭。今回は妻を殺されるとか復讐するとか、背負わされる役ではない。等身大というか自然体というかふがいないというか、どこにでもいそうなシングルファザーのサラリーマン。元妻は同じマンションに住み、息子を交替で育てる理想的な暮らし。元妻を演じるのは瀧内公美。瀧内はひと悶着起こすのが得意、というか適役だよね。

 上野と圭のもどかしい恋模様を描くワケだが、TBS火曜10時枠に必須の「恋愛かませ犬」が、洋行帰りの陽気な幼なじみ。料理の腕も人脈もあり、節度ある距離の縮め方は完璧な人たらしだ。演じるのは磯村勇斗。

 上野が圭と付き合い、磯村は傷心の旅へ、と思いきや。まだ諦めていない。いいね、根性のあるかませ犬。

 気になるのは、おにぎりやカレーをかいがいしく作る上野の姿に見惚れる圭だ。息子のケアありきで芽生える恋心は、はたして持続可能?とやや不安。圭は家事と育児を一切やらず、瀧内に見限られた過去がある。繰り返すなよ、と念を送る。

 で、もうひとつ恋模様がある。上野の父を演じる松重豊のほうね。日本語学者で辞書編纂がお仕事。愛する妻(八木亜希子)を亡くし、ただ息をするだけの日々だったが、あるきっかけで一念発起、婚活を始める。

 結婚相談所主催のパーティーで知り合ったのが整形外科の開業医。演じるのはとてつもなく美人だが、顔が安定しないというか、常に微細動していて描きにくさ随一の井川遥。遥も結婚を焦っているのだが、婚活のリアルではない。松重が明らかに好意を抱いていることを無神経に利用し、婚活の悩みをぶちまける。それ、手練れですってば。後妻業の手口。ハイスペック40代の婚活はたぶん猟場が違うぞと思ったりもしてね。

 とはいえ、松重と井川は互いに引かれる。相手に胸がきゅんとする瞬間を経験(年なので、さしこみや動悸と間違える)。当て馬やかませ犬も不在、穏便に順当に育つ大人の恋ってわけね。

 役者陣はいいのだがモヤモヤが続いているのは、たぶん相手を選ぶ側、相手から確実に選ばれる側の話だから。選ばれないのは磯村のみ。婚活を謳ってはいるが、勝ち組の恋愛ドラマなのだ。婚活中の人の共感を得られないところが難点ね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年6月16日号掲載

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