1年で日本語をマスター、16歳で大学に入学 日本を愛し抜いたドナルド・キーンさんの生涯

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1年足らずで日本語をマスター

 展示品のうちの一つは、3年前に96歳で亡くなったドナルド・キーンさんの机を再現したもの。机の上には和歌のアンソロジーや谷崎潤一郎の英訳本、「源氏物語」関連の本などがずらりと並んでいる。キーンさんは今年生誕100年で、神奈川近代文学館(横浜市)では、彼の文業をふりかえる展示会(「生誕100年 ドナルド・キーン展―日本文化へのひとすじの道」)が開催されている(7月24日まで)。

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 生粋のニューヨーカーであるドナルド・キーンさんは、苦労人だった。世界大恐慌のさなかに妹を亡くし、両親は離婚する。経済的に厳しい生活を送るが、抜群の知性が彼を支えた。飛び級を繰り返し、州の最優秀生徒に与えられる奨学金を得て、1938年、16歳でコロンビア大学に入学したのだ。

 そして学生時代、運命の出会いが訪れる。タイムズスクエアの古書店で投げ売りされていた英訳の「源氏物語」である。きな臭い当時の世相とは正反対の、色と恋に満ちた優雅で平和な物語世界に魅了されたキーンさんは、日本文化研究へと邁進する。

 42年に海軍語学校に志願したキーンさんは1年足らずで日本語をマスターし、翌年には卒業生総代のスピーチをするまでに。終戦間際の沖縄に上陸し、日本兵捕虜を尋問している貴重な写真も今回の展示で見ることができる。戦後は、アメリカと日本を往復しながら研究者生活を送り、生涯にわたって日本文化を世界に発信し続けた。

最後まで勉強に明け暮れる日々

 本展では、写真や自筆原稿はもちろん、谷崎潤一郎や川端康成、安部公房といった文豪との書簡など、96年間の軌跡を網羅した品々が勢ぞろい。

「家では最後まで勉強に明け暮れていました。部屋を出るのはトイレだけということも。無理をしてはダメだと言うと、“僕は無理が大好きなんです”と言っていましたよ」

 とは、2012年にキーンの養子となったキーン誠己(せいき)さん(71)。今回の展示は、生涯日本を愛し抜いた勉強家の偉業をたどる絶好の機会といえよう。

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