ドイツはウクライナ危機で「欧州の病人」に逆戻り インフレともう一つ“爆弾”がある

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不動産バブル崩壊の懸念

 ドイツでは官民挙げてロシア依存脱却の取り組みがなされているが、当分の間、エネルギー価格が高騰するのを回避することはできないだろう。

 4月の生産者物価指数(PPI)は前年に比べて33.5%上昇し、1949年の統計開始以降で最大の伸びとなった。エネルギー価格が87.3%上昇したことが大きく影響している。発電事業者向けの天然ガス価格は4.1倍、産業向けの天然ガス価格は3.6倍に高騰した。

 5月の消費者物価指数(CPI)も前年比8.7%の上昇となり、1963年以降で最大の上昇幅となったが、懸念されるのはドイツのインフレが短期間で収まりそうにないという点だ。

 リントナー財務相は「インフレは重大な経済リスクだ。インフレが自己増殖して暴走し、経済危機に陥らないようにしなければならない」と危機感を露わにした。

 約100年前にハイパーインフレに見舞われた経験があるだけに、ドイツ政府は「欧州中央銀行(ECB)はインフレを鎮圧するための断固たる行動をとるべきだ」との主張を強めている可能性が高い。

 これに対し、ECBは7月に利上げを予定しているものの、大幅な利上げが住宅ローン金利の上昇を引き起こし、割高感があるユーロ圏の住宅価格が大幅に下落することを危惧している。コロナ禍の金融緩和により世界各地の不動産価格は軒並み上昇したが、ユーロ圏で特に不動産が値上がりしたのは経済が絶好調なドイツだった。だが、低金利時代が終わろうとしている今、ドイツの不動産市場に不穏な兆しが生じている。

 高利回りを求める金融機関から資金を大量に集めて急成長したドイツ不動産大手アドラーが、資金の調達難から経営危機になりつつある。今後ECBが金融引き締めの姿勢を鮮明にすれば、苦境に陥るドイツの不動産企業が相次ぐ可能性は排除できない。

 ウクライナ危機の勃発で競争力を失い、不動産バブルが崩壊すれば、ドイツが「欧州の病人」に逆戻りするのは間違いない。欧州の雄であるドイツ経済が絶不調になれば、ユーロ圏全体の危機にまで発展してしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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