岸田首相も歓迎しているが…米国主導の経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」のリスクとは

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 世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)が日本時間5月23日未明、2年ぶりに開催された。

 コロナ禍で中断される前の会議(2020年1月)ではトランプ米大統領(当時)の自国第一主義などの主張が目立ったが、今回の議題は「ロシアの軍事侵攻をきっかけに冷戦は再来する可能性」や「今後のロシアに対する中国のスタンス」などだ。ウクライナへの軍事侵攻に対する西側諸国の結束ぶりが反映された形だ。

 23日の「冷戦2.0」と題するセッションでマコール米下院議員(共和党)は「短期的にはロシアが重要だが、長期的には米国と中国との間で軍事的、経済的な競争となることは間違いない」と主張した。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も24日「中国やロシアは国際秩序を軽視する強権国家だ。強権国家との貿易や経済的な交流の一部が私たちの安全保障を損なっている」と訴えた。

「ウクライナ危機により米国とロシアが冷戦時代に逆戻りすることはない」との見方がある一方で「米中貿易戦争やコロナ禍で停滞局面に入ったグローバル化の流れはウクライナ危機によってとどめを刺されてしまう」との懸念が生じている。

 冷戦終結以降、世界経済のグローバル化は大きく進展した。情報通信技術を活用したコンテナ物流システムの発達で企業のサプライチェーンは国境の壁を越えて拡大し、コスト面で最も適した国で生産された部品が国際的な物流ネットワークを通じて取引されて最終製品に組み立てられるという「世界最適調達システム」が定着した。

 世界規模のサプライチェーンは災害などの影響で一時的には混乱したものの、バックアップ体制を整えることでその機能を維持できると考えられてきた。だが、ロシアのウクライナ侵攻という予想外のリスクの顕在化で「コストを軸にした世界最適調達システムの時代は終わりを迎える」との疑念が高まっている(5月24日付日本経済新聞)。

「軍事力による国境の変更を行わない」「人権を尊重する」などのルールに基づく自由で平和な社会を志向してきた西側諸国が「今回の戦争はこうしたルールを根底から破壊した」と一斉に非難しているのにもかかわらず、ロシア側はまったく耳を貸さないどころか、メドヴェージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は「米国主導の観念的な国際秩序は崩壊し、今後『実用性』に立脚した新たな国際同盟関係が誕生するだろう」との自説を展開している(5月16日付英紙テレグラフ)。

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