甲子園常連校の有望選手が次々退部…不幸な「ドロップアウト」はなぜ起こるのか

スポーツ 野球

  • ブックマーク

Advertisement

「なぜ、うちの息子を使わないのか」

 全国の強豪校から勧誘がある、いわゆる“スーパー中学生”の中には、このような条件で入部してくることが少なくないという。期待された結果を残して、そのまま主力になれば良いが、プレッシャーが大きく、他の選手たちからの視線も厳しくなる。これが、不幸な“ドロップアウト”の原因になってしまうこともあるそうだ。

 一方で、選手を受け入れる側の高校サイドからも言い分はあるという。関東地区にある高校の監督は「ここ数年で選手や保護者の気質が大きく変わってきた」と指摘したうえで、こう続けた。

「マスコミの影響もあって、中学時代から名前の知られた選手は確実に多くなっています。当然、全員がそういうわけではないですが、そのことを鼻にかけるというか、妙にプライドが高い選手も増えていますね。選手だけでなく保護者もそうです。以前からありましたけど、『なぜ、うちの息子を使わないのか』という声もよく聞きます。保護者にとって“良い監督”とは自分の息子を使ってくれる監督なんですね。1年生から試合に出ていた選手が、何か理由があってメンバーから外れると途端にやる気をなくすというケースも多い。ここ数年そんな傾向が強くなっているように思います」

 甲子園常連校の中には、補欠選手で構成した「Bチーム」の練習試合も含めた全選手の成績を全てまとめて冊子にして、保護者全員に配っている学校もある。こうした数字で示すことで、保護者からの不満の声をなくすという狙いもあるそうだ。こういった取り組みも、過去の高校野球ではあまり見られなかった。

高校野球を全うできる整備づくり

 最後に言及したいのが、制度上の問題点だ。一度入部した学校の野球部を退部して他の学校に転向した場合、当該選手は1年間公式戦に出られないというものである(※ただし、家庭の事情などでやむを得ない場合は除く)。高校野球は長くても2年5カ月しかプレーすることできず、その中で1年間を棒に振るというのは極めて大きなディスアドバンテージであることは間違いない。

 もともとは他チームからの引き抜き行為を防ぐためにできたルールとのことだが、これだけジュニア世代の野球人口が減っていることを考えれば、このままの運用を続けることは得策とは思えない。

 選手側、学校側どちらに大きな問題がなくても、相性が合わなくて退部するというケースも当然あり、そういう選手を現状のルールでは守ることができないのだ。自分に合わないと判断すれば、他のチームを選ぶというのも、当然の権利である。より多くの選手が自分にあった環境で、高校野球を全うできる整備づくりが進むことを望みたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。