上島竜兵さんを偲ぶ 村野工業時代の「恩師」が語る後悔、旧友が思い出す“将棋とRX7”

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在校生に「遅刻するなよ」のメッセージ

 村野工業高校は男子校の名門校である。上島さんが在校中の1978年を含めて、春の甲子園に2回と夏に1回出場している。強豪ぞろいの兵庫県では甲子園に出るだけでも大変な快挙だった。ラグビーでも全国に名を馳せた時期があった。

 現教頭の前田徳彰さん(63)によると、2008年6月にNHKの『あほやねん!すきやねん!』というバラエティ番組で母校訪問のコーナーがあり、上島さんが来てくれた。

「当時まだ校舎などは昔のままで、上島さんは『廊下なんかも昔のままや』などと言って本当に懐かしがっていました」(前田教頭)

 前田教頭が世界史の授業をして、クラスの生徒に交じって上島さんも生徒役をするという内容での撮影だった。

「事前に私が古代世界史の講義をするといった程度の打ち合わせはしましたが、結構難しい質問にも上島さんが正答したので驚きました」と振り返る。

「さぞかし賑やかな芸人と思いきや、打ち合わせの時などは、すごく物静かな人だという印象で、テレビの印象とは全く違いました」(同)

 それでも撮影に入ると、眉を細くしていたクラスの男子生徒に「どこで眉落してきたん?」などと突っ込んで、笑わせたり和ませたりしていた。

「生徒のために何か書いてくださいますか」と依頼すると、紙に「遅刻するなよ」と書いてくれたという。しばらく守衛室の前に貼ってあった。

将棋好きの一面も

 前田教頭は「志村けんさんの『バカ殿』では、上島さんなしでは成り立たないほどの存在感を見せていましたね。今の在校生は、改めていろいろネットで調べたりしてすごい人気者だったことに驚いているようで、亡くなったことをとても残念がっていました。衝撃的な亡くなり方は、何が原因だったのかはわかりませんが」と語る。

 級友だった坂口邦男さん(61)は「当時はヤンキーの学校で有名でしたが、上島は目立たないおとなしい男でした。といって、いじめられることもなかった。特別、親しかった友達もなかったかもしれない。僕も家に行き来したことがある程度です」と話す。

「上島は将棋が好きで、ものすごく強かった。当時、近くの滝川高校に将棋の谷川(浩司)さん=九段・永世名人資格=がいて、ある時、対局したそうです。『ボロンチョンに負けたわ』としょげて帰ってきました。僕と対局したら、向こうが二枚落ちとかで対戦するほど強かったのに。授業中でも、ポケット将棋やったり、詰将棋やっていましたね」(坂口さん)

 車に興味を持つ年頃でもある。

「上島は『絶対RX-7が欲しい』と言っていた。おとなしい男があんな派手なスポーツカーを欲しがっていたのが意外でしたね」と坂口さん。

 卒業の時、坂口さんが「お前、仕事どうすんねん?」と聞いたら、「劇団員になりたい。でも、劇団四季を受けたけど落ちたので、東京の専門学校に行く」と言っていた。

「その後、どうなったかもわからなかったけど、何年か経ってから、テレビに出ていてびっくりしました。俳優とかでなくコメディアンだったし。有名になってくれたのが僕ら同級生の自慢でしたけど、ある時、同窓会名簿を見たら住所も書いてなかった。芸能人としていろいろ制約もあったのかな」(同)

 自慢の級友の突然の死に、坂口さんは「コロナで舞台芸もやりにくくなったんでしょうけど、最近も『真犯人フラグ』(日本テレビ系列)というテレビドラマにも出てたし、まだまだ売れっ子やったので、死ぬような理由があったとは思えない。いったい何があったのか、本当に残念です。今回の上島のことで、長年会っていなかった同窓生と連絡とりあったりしています。すごく寂しいけど、彼がつないでくれたのでしょうか」と話す。

 コロナ禍や海外の戦争でモヤモヤした不安な時代、まだまだお茶の間に一服の笑いをもたらしてくれたはずの男の冥福を祈りたい。

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相談窓口

・日本いのちの電話連盟
電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)
https://www.inochinodenwa.org/

・よりそいホットライン(一般社団法人社会的包摂サポートセンター)
電話 0120-279-338(24時間対応。岩手県・宮城県・福島県からは末尾が226)
https://www.since2011.net/yorisoi/

・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」やSNS相談
電話0570・064・556(対応時間は自治体により異なる)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html

・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
https://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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