日本人の「お気持ち」主義が露呈したウクライナ“避難犬”騒動 狂犬病よりオミクロンを怖がる国民性(中川淳一郎)

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 本当に日本って「お気持ち」で世の中が動いて、気持ち悪いですよね。ウクライナからやってきた狂犬病ワクチン未接種の犬であっても、特例で検疫における隔離が免除されたのです。

 きっかけは、とあるウクライナ人女性が連れてきたレイ君という犬。狂犬病予防法に基づき、180日の隔離(1泊3千円)が必要と告げられ、この女性は「こんなことならば母国でレイ君と一緒に死ぬべきでした」と発言。このニュース及び関連ツイートが大拡散し、「犬は家族みたいなもの!」という声に加え、折からのウクライナへの同情的世論の後押しもあり、今回の特例となりました。世界で11しかない狂犬病のない国が何やってるんだか。

「お気持ち」で有名なのが韓国です。国内でも海外からも皮肉を込めて「国民情緒法」があるとされています。永遠に終わらない「反日」もそうですし、朴槿恵元大統領と側近だった崔順実を巡る「崔順実ゲート事件」では、収賄・不正献金・親族の不正進学問題など「上級国民」への怒りが大爆発し、「ロウソクデモ」が発生し朴政権は崩壊。

 結局国民感情が大いに政治と社会を動かすわけですが、日本も同じです。オミクロン株が南アフリカ等で広まった時、岸田政権が鎖国を発表すると読売調査では支持する人が89%。帰国日本人と来日外国人に厳しい待機期間を設け、世界が開国をしても永遠に鎖国を続けている。マスクを外して楽しそうに飛行機に乗ったり満員のスポーツイベントで大声を出している世界と日本の差を感じていますが、結局「コロナは怖い」「マスクは大切」という「お気持ち」が支配的だから変われないのでしょう。

 それでいて今回の狂犬病の件、一体何なんですか? オミクロンは怖いけど狂犬病は怖くないってか? 世界で毎年5万5千人が死に、狂犬病ウイルスを持つ犬にかまれて発症したら致死率はほぼ100%。死なないためにはその後ワクチンを打ち続けなくてはいけなくなる。もう、完全に人々がまひしている。

「ウクライナが可哀想」の空気に政府も抗えなくなったのでしょう。それでいて未だにオミクロンの水際対策が支持されているのも意味不明。しかし、もしウクライナから来た犬が狂犬病を発症し、周辺地域の飼い犬が鎖でつながれて保健所で検査を受け、軒並み殺処分される羽目となったら、「なぜ特例を出したんだ、無能政府! ウクライナ人は帰れ!」とまたお気持ちが変わるのでしょう。

 思えば私は、お気持ちを読まない人生を歩み続けてよかったです。どうでもいい他人からいかに嫌われても構わないため、違和感を覚えるものには文句を言う。だから大学時代も生協が利権を握っていた新入生のクラスTシャツ販売権を彼らから奪い、前年まで4千円も払っていたものを1500円で新入生に売り、生協を激怒させることも厭わない。

 だってその方が学生のためになっているでしょ?という開き直りですが、大事なのは、空気を読まない人はそんなに気にされていないことです。「なんだアイツ!」と思う人なんて10%程度。残りは何とも思っていません。だからお気持ちを読む必要はありません。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年5月5・12日号掲載

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