30年間賃金が上がらないのは誰のせい? 年収は韓国以下に…背景に「値上げヘイト」が

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セーフティーネットの不在

「日本の社会というのは、人材を磨いてなんぼの社会ですよね」

 と語るのは、前出の神津里季生「連合」顧問である。

「資源に乏しく、人口も減少していく中、以前にも増して従業員に賃金を分配し、また、彼らの教育にもお金をかけていかないと国も企業も、自分で自分の首を絞めることになる。しかし先進国の中でも、日本にその姿勢が乏しいことは歴然としています。今のままでは、国の将来は危ういと思いますよ」

 その神津氏は、2015年から6年間、「連合」会長として、賃上げの旗を振ってきた身でもある。

 なぜ給料は上がらなかったのか。

「ここ20年ほど、企業が非正規雇用を増やし、彼らを安く使い続けてきたことも大きいですが、私が、その理由として最も大きかったのではないかと考えるのは、セーフティーネットの不在です」

 と神津顧問は続ける。

「日本にも生活保護はありますが、これにはある種のスティグマ(負の印)があるため、捕捉率は2割弱。就労支援も十分ではありません。これでは個々人はリスクを取った判断はできないでしょう。結果、労働市場の硬直化につながってしまっているのです。対してヨーロッパ、とりわけ北欧などでは、会社を辞めても労働者の生活が保障され、次の就職に向けてスキルを身に付けることを可能とするシステムが出来上がっています」

日本の沈没を防ぐ方法

 その上で神津顧問は、決して闇雲に雇用流動性を高めることのみが正解ではない、とも指摘するのだ。

「長期安定雇用の中で、安心して働いてもらい、人材を育成し、企業の発展に寄与してもらうという伝統的スタイルは日本の“強み”でもある。しかし、大事なことは個々人の選択です。重要なのは、希望する人については、スキルアップに基づいた労働移動が容易にできるようにすること。そして社会全体でそれをバックアップする体制を作っていくということではないでしょうか。そうしたシステムを作れば、労働市場は活性化し、賃金の上昇につながり、ひいては、日本の“沈没”も防げるはずです」

 いかがだろうか。

 ニッポンの「貧困化」は長年の慣習や、企業・消費者・労働者の持つ三者三様の“事情”や“背景”が複雑に絡まり合って起きていることがわかる。

 となれば、あえてその「責任者」の名を挙げるとすると、時の政府か、経済界の指導者か、あるいは国民全体か……。

 いずれにせよ、「官製春闘」やら小手先の弥縫策やらでは解決できない問題であることだけは確かだ。

週刊新潮 2022年3月24日号掲載

特集「官製『春闘』でも年収は韓国以下! 働けど働けど…給料が上がらないニッポン『誰が悪いのか』」より

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