円安はさらに進み1ドル=150円も…日銀総裁交代を待つのではく4度目のサプライズを

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 政府は4月26日の関係閣僚会議で、ウクライナ情勢で発生した物価上昇への対策を決定した。石油元売りへの補助金拡充や生活困窮者への現金給付が柱となっている。

 ウクライナに侵攻したロシアに対する西側諸国の制裁により、ロシアからの天然ガスや原油の供給に支障が生じるとの懸念から、世界全体でエネルギー価格主導のインフレが発生していることが背景にある。

 エネルギー資源の大半を海外に依存している日本も同様の事態となりつつあるが、資源高に加えて通貨(円)安にも苦しめられている。

 ロシアがウクライナに侵攻した今年2月は1ドル=115円前後で推移していたが、3月に入って一気に円安が進み、直近では1ドル=130円近くにまで下落している。

 対ドルでは約20年ぶりの円安水準だが、事態はさらに深刻だ。

 国際決済銀行(BIS)が発表する円の総合的な実力は約50年ぶりの低水準となっており、円の実力は今や1970年代前半と同じなのだ。

 かつては「有事の円買い」と言われ、国際情勢が緊迫化すると円は「安全資産」として重宝されていたが、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、「第3次世界大戦勃発」との懸念が生じつつあるにもかかわらず、円は売られたままの状態だ。

 制裁の影響で急落したロシアの通貨ルーブルは侵攻前の水準に戻ったが、円は一向に反転する兆しを見せていない。

 米連邦準備理事会(FRB)が引き締めモードを鮮明にしているに対し、日本銀行は金利上昇を抑え込んでおり、日米の金利差が拡大していることが主な理由だと言われている。
 原油など資源価格の高騰で貿易収支の赤字が拡大していることも影響している。

日常生活に悪影響

 残念ながら円安がさらに進む可能性が高いと言わざるを得ない。

 英国のイングランド銀行(中央銀行)はFRBと同様に政策金利を引き上げ始めており、欧州中央銀行(ECB)も今年7月から政策金利を引き上げることが確実視されている。

 世界の主要な中央銀行がインフレ退治のために一斉に引き締めモードになっているのに日銀だけは量的緩和を続けていることから、「1ドル=150円程度の円安は十分にありうる」との見方が強まっている。

 資源高と通貨安というダブルパンチは日常生活に悪影響を及ぼし始めている。

 国内のガソリン価格は、政府が多額の補助金を出しているため、1リットル=170円強でとどまっているが、補助金がなければ既に200円近い水準となっている。さらに円安が進み、1ドル=150円になれば、1リットル=250円程度に上昇する可能性は十分にある。原油価格は現在1バレル=100ドル前後だが、紛争の長期化で1バレル=150ドルにまで上昇すれば、ガソリン価格は1リットル=300円を突破してもなんらおかしくない。

 このところ上昇傾向にある電気料金が高騰するのも確実な情勢だ。

 東京電力管内の標準家庭のモデル料金は約8500円だが、1万円を超えるのは時間の問題だろう。現在の2倍の水準になってしまう可能性も排除できない。

 急ピッチで進む円安に対して、各方面から懸念の声が上がっている。

 日本商工会議所の三村明夫会頭は「中小企業の多くが円安による悪影響を受けており、日本経済にとって良くない」との見解を示した。

 鈴木俊一財務大臣も「円安が進んで輸入品等が高騰している。悪い円安と言える」とかなり踏み込んだ発言を行っている。

 これまで円安を求める声が多かった日本で円安懸念が噴出しているのは、企業の海外拠点化が進んだことで円安の輸出促進効果が限定的になり、円安のデメリットがメリットを上回る状況になっていることが関係している。

 鈴木財務大臣が円安に対して「急激に変動することは望ましくない」と牽制したことで、「円安を阻止するための為替介入が実施されるのではないか」との憶測が生じているが、現実問題としては難しいだろう。

 米国の金融当局は高インフレの是正という課題を解決するため、景気を失速させない範囲で可能な限りドル高にしたいことから、円高・ドル安を望む日本と協調して為替介入することに前向きになるとは思えないからだ。

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