不妊治療の保険適用開始で100万円が30万円に… 産婦人科医が指摘する“それでも残る問題点”の弊害とは

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「ランクが低い受精卵」の扱い

 さらにハードルをあげていることがある。カップルそろっての診察が必ず1回は必要になることだ。

 保険適用になる前であれば、カップルの同意を確認するためにわざわざ2人そろって診察を受ける必要はなく、男性は必要な時だけ来院すればよかった。ところがこれからは、最初の問診では必ず2人での診察が求められる。平日しか診察が受けられない病院であったり、夫の側が遠方に勤務していたりして、なかなか調整が難しいケースもあるという。

 なによりも田口医師が懸念するのは、保険適用という事態で、さらなる“命の選別”が行われるのではないかということだ。

 冒頭でも述べたように、体外受精や顕微授精では保険適用に際して回数制限が設けられた。しかし、採卵回数においては制限がないのである。これによって「より質の高い受精卵を移植するため」に、今後、採卵回数が増加するものと考えられる。

「これまでであれば、採卵後、受精卵を凍結して保存、移植する際、グレードが低くても妊娠の可能性のある受精卵は原則凍結保存し、移植の前に採卵を数回行って複数の受精卵を確保するなどしていました。保険適用後は、凍結したら原則まず移植する決まりとなり、かつ制限された回数の移植をしたら、その後は一切保険が適用されなくなりますので、ランクが低い受精卵は保存しない流れになっていくでしょう。私自身、ランクが低い受精卵が着床し、やがて赤ちゃんになっていくのをこの目で見てきましたので、これから予想される“受精卵破棄”の流れには、ちょっとなんとも言えない感情が沸湧き起こります。そもそも、凍結という行為が医療の範囲だと想定されているのかどうか、そこからして疑問を感じてしまいますね。あらゆる場面を想定したうえでの制度設計がなされていないということは、十分わかりました」

 不妊治療における保険適用は多くの患者に光明となるだろうが、このように少なからず弊害も出始めている。保険適用にあたっては「エビデンス」も確かに大事だが、一番優先すべきは「子どもを持ちたい」と思う女性たちの気持ちではないだろうか。国としては今後、さらに適用範囲を緩和していく方向だそうだが、女性たちの気持ちを置き去りにした線引きは今、大きな混乱と困惑のタネとなっている。

中西美穂(なかにしみほ)
ジャーナリスト。1980年生まれ。元週刊誌記者。不妊治療で授かった双子の次男に障害が見つかる。自身の経験を活かし、生殖医療、妊娠、出産、育児などの話題を中心に取材活動をしている。障害児を持つオンラインコミュニティ・サードプレイスを運営。

デイリー新潮編集部

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