実験が明らかにした「オンラインの会話では共感が起きない」 原因の一つは「視線のズレ」か

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本当の意味でコミュニケーションと言えるのか

 もっと技術革新が進めば、超高速通信が実現し、オンラインとリアルなコミュニケーションに速度上の差がなくなって脳にズレを感じさせなくなることが可能になるかもしれません。しかし、現在の技術では不可能であり、オンラインコミュニケーションで脳は「気持ち悪い紙芝居」を見せられ続けているのです。

 こうした弊害を伴うオンラインコミュニケーションが、対面のコミュニケーションと同等、あるいはそれ以上に重視・重宝されることによる長期的な悪影響について、今のところ科学的知見はまだ出ていません。なにしろ、今のオンライン重視の風潮は、コロナによってもたらされた新しい事態です。その結果が分かるのは5年後、10年後になるでしょう。

 とはいえ、心理学で言うラポール(相互信頼関係)形成が難しくなることは容易に推測できます。お互いに信頼を置けず、猜疑心をもって接するようになれば、今以上にギスギスした社会になる危険性がある。そもそも、相互信頼関係に基づかず、先に触れた「人と接しているけど孤独」という矛盾を引き起こしかねないコミュニケーションを、本当の意味でコミュニケーションと言えるのかどうかも疑わしいのではないでしょうか。

子どもたちへの影響は

 とりわけ、今回の実験結果を踏まえた上で心配されるのは教育における影響です。ビジネスにおいての情報伝達であれば、弊害のあるオンラインコミュニケーションでも問題はないのかもしれません。しかし、家族間や教育など、質の高いコミュニケーションが必要とされる場においては、脳の同期が起きないオンラインコミュニケーションは非常に危険です。発達期の子どもにおいては、コミュニケーションが極めて重要な意味を持ちます。そして人間形成において極めて重要な教育とは、良質なコミュニケーションの上にこそ成り立つものだと私は考えています。

 教師と児童、また児童と児童。いずれの関係においても、脳の同期が期待できないオンラインコミュニケーションが教育現場の基本となってしまった場合、その影響は計り知れないものになる恐れがあります。少なくとも、現時点でオンラインに重きを置いた教育が子どもたちに好影響をもたらすことは実証されていません。むしろその逆です。

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