感染症や自然災害に強い社会のために法整備を…医師の国会議員が語る「コロナ禍の現実」

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ドクターヘリで救急医療を牽引した松本医師が危惧する「緊急時体制の脆弱性」

 こうしたフォーラムの提言に企画委員長として加わっているのが自民党衆院議員の松本尚氏だ。昨年まで日本医科大学千葉北総病院で救命救急センター長(副院長)として医療の最前線で勤務しており、ドクターヘリによる救急診療の第一人者として知られる。かつて、フジTV系で放送されたテレビドラマ「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」では医療監修を務めた。

 松本氏はフライトドクターをしながらコロナ禍で千葉県の災害医療コーディネーターも務めた経験を持つが、ここで実感したのが、緊急時に対応する仕組みの脆弱性だったという。取材に対し、次のように語った。

「行政の立場で病床や医師、看護師を確保したいと考えても、なかなか集まりません。現行法では病院経営者には『お願い』しかできないのです。私自身、日本ではいつでもどこでも誰でも、安く質の高い医療を受けられると信じて疑わなかったのですが、感染症によってこの国の医療はかくも脆いものだったのかと痛感しました。日本には公立や公的な病院、私立の医療機関がモザイクのように存在します。普段はそれで何の問題もないのですが、残念ながら今回のような非常時には同じ方向を向けなかった――」

 感染拡大の初期に千葉県では幕張メッセに1,000床の臨時病院を作ろうという計画が持ち上がり、松本氏は実現に向けて動いた。しかし、そこに立ちはだかったのは既存の関係法令だった。「医療法だとか、消防法だとか、建築基準法だとか、あるいは地方自治法だとか、いろんな法律が壁になって、実現できませんでした。そもそも、国民の命と財産を守るはずの法律が妨げになった。これこそ本末転倒ではないですか」と話す。

平時から非常時に移った時に法律が動く法的装置が必要

 今回のコロナ禍について松本氏は、救急医療の専門家の立場から、横浜港で停泊中のダイヤモンド・プリンセス号(D・P)の船内でクラスターが起きた際の問題も課題として挙げる。

 このクラスターでは、自衛隊とともに医師や看護師など医療従事者による医療チーム「DMAT」が出動した。災害時医療で頼りにされる厚労省管轄の切り札的存在だ。しかし、その法的基盤は弱い。国が彼らに出動の命令をする権限はない。派遣元の医療機関の長の了承が必要であるため、D・Pに派遣されたチーム内に感染者が出たことを理由に病院が派遣を許可しないケースもあった。

 松本氏は「派遣されたDMAT隊員には保険や危険手当も適用されません。まったくのボランティアベースで運営されているのです。自衛隊や警察は独自の無線波を持っているのに、彼らには、緊急の情報の収集や伝達に必要な無線波の割り当てがありません。スマホや固定電話で対応せざるを得ないので、当然ながら業務に支障も出ます。こうした一見して小さな問題も、実は非常時の大きな障害になっている」と言う。

 さらに、こうした問題が起きる背景について「平時のルールで非常時に対応しようとしているからだ」と強調し、こう続けた。「わかりやすく言うと、非常時には非常時のルールを持ち、平時から非常時に移るための『スィッチ』を持たなければならない。非常時になったら、これをオンにして、その時にいろんな法律が非常時の考えで動くようにしなければならない。そのためには、しっかりした法的装置を持たなければなりません。最後はそこに辿り着く」。

椎谷哲夫(しいたに・てつお) 1955年、宮崎県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院社会科学研究科修士課程修了。元中日新聞社(中日新聞・東京新聞)編集委員。警視庁、宮内庁、警察庁、海上保安庁担当などを経て販売局次長、関連会社役員などを歴任。著書に『皇室入門』(幻冬舎新書)、『夫婦別姓に隠された“不都合な真実”』(明成社)など。

デイリー新潮編集部

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