感染症や自然災害に強い社会のために法整備を…医師の国会議員が語る「コロナ禍の現実」

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 産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が4月16、17日に共同で実施した世論調査によると、大災害などの緊急時に政府の権限を強化する「緊急事態条項」を憲法に設けることに賛成が72.4%を占め、反対の19.7%を大きく上回った。立憲民主党の支持層でも6割が賛成しており、ロシアによるウクライナ侵略や中国による軍事的脅威を持ち出すまでもなく、国民の緊急時の危機対応についての意識は確実に変わりつつあると言えよう。

 そうした中、医療や経済の団体トップや専門家らが中心となって結成した会議体の「ニューレジリエンスフォーラム」(共同代表・横倉義武日本医師会名誉会長ほか)が、「感染症や自然災害に強い社会」を目指すための法整備などを求めて政府や与野党に提言を行い注目されている。4月26日には、「緊急事態宣言」の発令を憲法に規定し、非常時には内閣による緊急財政支出を可能にすることなどを求める第2次提言をまとめた。フォーラムにはドクターヘリによる救急医療の第一人者で、昨秋の総選挙で衆議院議員になった日本医科大特任教授の松本尚氏も中心メンバーとして加わっている。(ジャーナリスト・皇學館大特別招聘教授 椎谷哲夫)

医療・経済の専門家やリーダーによる会議体「ニューレジリエンスフォーラム」

 ニューレジリエンスの「レジリエンス(resilience)」とは「(困難や苦境などの危機から)立ち直る力、復活する力、回復力」を意味している。聞きなれない言葉かもしれないが、防災科学などでは「災害レジリエンス」などの表現も使われる。

 東日本大震災に続いて、中国・武漢発の新型コロナウイルスによる感染禍でも、緊急時に危機管理の一元化ができない法制度の脆弱さなどが浮き彫りになった。その現実に危機感を抱いた医療、経済、防災、自治体の関係者が「国民の生命や財産を守る」ための国会論議や国民的な議論を促進しようと令和3(2021)年6月にニューレジリエンスフォーラムを立ち上げた。

 役員には日本病院会会長や日本歯科医師会会長、日本薬剤師会会長、日本看護協会会長、日本理学療法士協会会長、日本獣医師会会長などの医療関係団体のトップのほか、経団連や日本商工会議所、全国商工会連合会、日本青年会議所の関係者、地方の経済連合会元幹部、現役の県知事などが名を連ねている。さらに全国各地の商工会会長や医師会会長、薬剤師会会長、議会関係者らが賛同者として加わっている。

 いわゆる緊急事態については、一般的に「国防上の有事」「内乱やテロ」「大規模災害」「感染症のパンデミック」が想定されるが、フォーラムは後者の災害と感染症を主な対象として、これまでの現場での関係者の体験を活かした現実的な提言を行うための研究を続けている。

「あらゆる危機から国民の命と財産を守る基本的仕組みが必要」

 昨年6月のフォーラム設立にあたって、共同代表の一人である日本医師会名誉会長の横倉氏は「コロナ対策については、通常医療から非常時のコロナ対応へ柔軟に切り替えることができない医療体制の構造的な問題が顕在化した」と指摘。「必ず次のパンデミックが発生すると認識し、国家レベルでの危機管理を一元化し、非常時には総合的な対策が実行できる司令塔的な機能の構築を推し進めるべきだ」と説いている。さらに、「平時」から「緊急時」に事態が変化した場合に備えて、ルールの切り替え要件の法的な整備、それらの根拠規定としての憲法における緊急事態条項新設の検討など、建設的な論議に取り組むことも提唱した。

 同じ共同代表で関西大学特別任命教授の河田惠昭氏は防災専門家の立場から「感染症とか自然災害というのは、相手が人間ではなく、私たちの理屈がわからない敵だ。そこと戦うためには法律をきちんと整備しないと負ける。その根拠規定である憲法のあり方もしっかり議論すべき。今起こって困ることになぜ対応しないのか」と警鐘を鳴らした。

 また、経団連常務理事の井上隆氏は「これまでの企業における危機管理は個別の災害を想定したもので、今回のコロナのような世界的な規模の感染症とか、同時に危機が起きる複合型の災害に十分耐えるようなものではなかった」とした上で、「あらゆる危機からあらかじめ国民の生命と財産を守る、法治国家としての基本的な仕組みが必要ではないか」と訴えた。

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