価値観の変化に対応した地域のライフラインになる――細見研介(ファミリーマート代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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価値観が変わる中で

佐藤 細見さんは昨年3月に親会社の伊藤忠商事からファミリーマートの社長になられました。どんな1年でしたか。

細見 荒波に揉まれ、バタバタしていたという感じですね。この2年ほどは、コロナでものすごく経営環境が変わりました。人が外に出ないわけですから客足が減り、それが長期にわたったので、ライフスタイル自体が変化してきました。

佐藤 今年いったん収まるかと思ったら、オミクロン株が出てきました。

細見 そうした中でサプライチェーンは混乱し、原材料の値段は上がり、為替は円安になりました。エネルギー価格も高騰して、電気代が上がっています。1万6千店もありますと、電気代の上げ幅だけでも莫大な金額になるんです。

佐藤 ウクライナとロシアの戦争によって、今後もエネルギー価格はさらに上がるでしょうね。経済制裁を受けているロシアは、天然ガスなどエネルギーの一大供給地ですから。

細見 この1年は、コロナの影響があった2年間のマイナス要素がすべて顕在化してきている感じです。

佐藤 そうかもしれません。

細見 ですからまず、このコロナの後遺症といいますか、負の影響を乗り越えないといけない。それに加えて、コロナ前からのトレンドに対応していくという感じです。

佐藤 それはデジタル化ですか。

細見 はい、まずはデジタル化です。人手不足の解消や効率化に直結する解決策のひとつですから、分野を問わず、会社を挙げて取り組んでいかなければなりません。ただこれはなかなか簡単ではありませんね。

佐藤 コンビニならではの問題がある。

細見 例えば、キャッシュレス決済が進んでいますね。QRコードやバーコードを使って簡単に会計できるようになっています。いま弊社だと全体の約3割をキャッシュレス決済が占めています。

佐藤 3割は微妙な数字ですね。

細見 そうなんです。だから7割は現金決済です。つまり現金も扱うし、キャッシュレスにも対応している。でもキャッシュレスには手数料が掛かってくるんですね。これも全体では莫大な金額になります。

佐藤 それはすべて現金だった時には発生しなかったコストですよね。

細見 はい。だからキャッシュレス化で新たなコストが発生しているという面がある。一方、効率化は効率化で追求していかなければなりません。こうした中では、最適な販売方法を探したり、新しい収益源を見つけたりすることが必要になってきます。そこを社員にも加盟店さんにも理解していただいて、問題意識、危機意識を共有することが、いま非常に大切なことなのです。

佐藤 もう後戻りはできないですからね。

細見 もう一つ、大きな潮流となっているのはSDGsです。これまでのように、さあ買ってくださいと店舗にたくさん商品を並べて、売れなかったら廃棄も仕方ないという発想は、もう容認されません。ここでもデジタル、特にAI技術を活用して食品ロスを減らし、効率よく売るようにしなければなりません。

佐藤 こうした問題は、大企業であればあるほど責任が問われます。

細見 いま価値観が変わりつつあることをものすごく感じています。SNSの時代の特徴は、同じ価値観を持つ人たちが水平的に広がっていく速さです。そこで発信された一つのことが、すぐに大きな流れとなって浸透していく。グレタ・トゥーンベリさんが登場して環境問題を取り上げ、いまの社会はおかしいと声を上げた。それはあっという間に若い世代に広がっていきました。こうしたことに機敏に反応していかなければならない。

佐藤 紙の包装が増えましたね。

細見 プラスチックごみの減少にはいろいろ取り組んでいます。スプーンの柄の部分に穴をあけてプラスチック使用量を減らしたり、食品の容器に再生可能資源由来の素材を使ったりもしています。

佐藤 食品については、これから動物の権利や、どんな環境で育てられているか、どのように食肉にされたかといったプロセスも問題になってくる可能性があります。

細見 おっしゃる通りです。

佐藤 フランスではビーガン(完全菜食主義者)による食肉店襲撃も起きました。この人たちのための食材やサプリメントの開発などは大きなビジネスチャンスでもありますが、過激な活動も考慮しておく必要がある。SDGsには非常に幅広い領域がありますから、分野によっては過激な運動を始める人も出てきます。

細見 食品が、いつ、どこで、誰が作ったかをたどれるトレーサビリティーは、非常に大切だと考えています。こうしたさまざまな問題に目配りをして、きちんと対処していけるようにしていきたいですね。

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