価値観の変化に対応した地域のライフラインになる――細見研介(ファミリーマート代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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100万足以上売れた靴下

佐藤 時代の変化は、商品開発にも大きく影響してくるでしょうね。

細見 私どもは、社名に「ファミリー」とあるように、家庭の中で飽きずに食べたり、繰り返し使ったりできるものを作る。それを一つのコンセプトとしています。「ファミリークオリティー」と呼んでいますが、そのコンセプトを強く意識して、昨年から「ファミマル」というプライベートブランドを展開しています。その成果がだいぶ出てきたところなんですよ。

佐藤 靴下が大ヒットしましたね。ファミリーマートカラーをあしらった「ラインソックス」は100万足以上売れたと聞きました。

細見 クリエイティブディレクターとして新進デザイナーの落合宏理さんにお願いして、「コンビニエンスウェア」という新しい発想で靴下や下着をそろえました。私も靴下を履いているのですが、ほんとに履き心地がいいですよ。お洒落の感度もいいし、値段も390円(税込429円)と高くない。

佐藤 伊藤忠時代にファッションをやられていた細見さんの面目躍如ですね。

細見 とてもいいものができたので、落合さんとキャラバンを組んで加盟店さんに説明して回ったんです。関西地区から始めたのですが、まずそこから火がつきました。

佐藤 コンビニの衣料といえば、急に行くことになった出張先で買うものでした。でもこれは、そうした必要に迫られて買うという商品ではないんですね。

細見 これを目当てに店舗にお越しいただきたいですね。やはりコロナでなかなか外に出ていけず、お洒落をしたくてもできない。そんな中で、ファミリーマートに行ったら、意外にもお洒落で感度のいいものがあった、と思ってもらいたい。実際にそうしたプチお洒落心をくすぐることができたから、これだけ購入していただけたのだと思います。

佐藤 いまの消費者の感覚ともマッチしていたんでしょうね。

細見 漠然とした印象ですが、過度な感じのものは、いまの消費者の感覚に合わなくなっているんじゃないかと思います。また、デパートで売っているような高級なものをコンビニで売るのも、筋が違うと思っています。やはり先ほど申し上げた「ファミリークオリティー」というコンセプトの商品にこだわったのがよかったのですね。

佐藤 この連載では何回か紹介しているのですが、東村アキコさんの「東京タラレバ娘」というユニークな漫画があります。シーズン1はテレビドラマ化もされましたが、社会で活躍している女子3人がお洒落なカフェやレストラン、そして居酒屋に集まって恋愛話をするんですね。でもシーズン2の主人公は30歳の女子で、高級レストランに出掛けたり、高級スイーツを買いに行ったりはしない。いつも行くのはコンビニで、そこで手頃な値段の美味しいスイーツを買って、家でネットフリックスでドラマを見ていれば幸せ、という生活なんです。

細見 なるほど。

佐藤 先頃『寡欲都市TOKYO』という本を出した元博報堂の原田曜平さんは、そうしたのんびり、まったりした傾向を「チル意識」と呼んでいますが、いまの若い人たちの欲望は、何か高価でスゴいものを手に入れることではなくて、自分の好きなもの、自分に手の届くもので満足する。そうなるとやっぱりコンビニですよね。特にZ世代(1990年代後半から2000年代生まれ)といわれる人たちの行動様式の中で、コンビニの占める比重は今後ますます大きくなっていくと思います。

細見 消費者のマインドや価値観がどんどん変わっているのは実感するところです。そうした流れに寄り添いながら、どんなサービスを付加していくかを考えなくてはいけない。地域のライフラインとして生き残るために、コンビニは猛スピードで変わっていく必要があると思っています。

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