娘の受験失敗で新興宗教、「教祖の愛人」になった妻 6年ぶりに帰ってくるも新たな不幸が…52歳夫が語る後悔

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今は平穏な暮らしを送るも

 医師の宣告通り、3ヶ月後に妻は静かに逝った。最後は娘とふたり、手を握りしめていたら、ふっと力が抜けたという。その瞬間、妻はかすかに笑みを浮かべた。

「娘とも言っているんです。確かに笑ったね、と。妻がどういう思いで6年近く、あの団体にいたのかわかりませんが、最期を看取れてよかったと私は思っています。何もなければ、妻と私と娘、今も幸せに暮らしていたかもしれません。私が妻の心をもっと思いやっていれば、妻はあんな団体に行かなかったかもしれない。自分を責めるとキリがありません。でもあのとき、私は妻を止めることができなかった。洗脳を解く専門家に頼めばよかったのかとも思うけど……」

 どうすることもできなかったというのは言い訳なんでしょうけどと、彼はうっすらと涙を浮かべた。だが妻のいなかった6年、彼も心から笑ったことはなかっただろう。常に気持ちのどこかに妻のことが重苦しい鉛のように沈んでいたはずだ。

「妻は自分の両親との縁も切っていたようです。いつしかご両親は亡くなっていました。連絡がとれなかった妹さんが海外にいるとわかったのは、団体から送られてきたダンボールの中にぽつんと入っていた住所録に記載があったから。電話して珠美の死を伝えると、妹さんは泣き出し、『義兄さん、ごめんね』と」

 密葬も1周忌も、忠輔さんと娘と母の3人でとりおこなった。

 21歳になった娘は大学院まで行って心理学をさらに勉強したいと張り切っている。80歳をとうに越えた母は元気に趣味に没頭、家事もそれなりにこなし、充実しているようだ。そして50代になった忠輔さんは、今も妻と思いが通じなくなったきっかけを探し続けている。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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