ニクラウス、46歳でのマスターズ優勝の舞台裏 新聞には「さっさと現役をやめろ」とも(小林信也)

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冷蔵庫に貼られた記事

 ニクラウスは、グラウトのたった一言で、次のような本質に目覚めた。

〈ジャックの指摘するのは、トップでの無理な過度のコックによって、バック・スウィングから返しのスウィングに移るタイミングがずれる点である。〉

 往年のパワーを失ったニクラウスはボールを飛ばすため、手首や腕の力をことさら使おうとしてスウィングを崩していた。

 その日からマスターズまで複数の大会を闘いながら、ニクラウスは「天まで届かせるスウィング」を身体が取り戻すよう、無心に反復を重ねた。事前の大会の結果は意に介さなかった。

 だが周囲はそんなニクラウスを、哀れみを込めた複雑な思いで見ていた。マスターズに参加するため、ニクラウスは親友のジョン・モンゴメリーと家を借り、互いの家族と滞在した。悪戯好きのモンゴメリーは、冷蔵庫の扉に、新聞のコラムを貼り出した。〈もう終わってダメになった熊はさっさと現役をやめてゴルフ・コースの設計でも何でもしていろ〉と、ゴールデンベアとも形容された彼の潔い引き際を促す記事だった。

 無理もない。ニクラウスはすでに46歳。75年にマスターズで5度目の優勝を飾ってから11年が過ぎている。前年は全米オープン、全英オープンで予選落ちしている。ニクラウスは、見るたびに腹の立つその切り抜きを、あえて貼ったままマスターズに臨んだ。闘争心を鼓舞するためだった。

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